連載「月曜日はヴィーガンの日」でおなじみの杉山絵美さんが、日本ガストロノミー学会の代表でもある、山田早輝子さんと共に2020年9月に設立したFOOD LOSS BANK(フードロスバンク)。多様性と循環性、持続可能という3つのキーワードを軸に、「食品ロス削減から環境改善を図る」ためのプロジェクトを精力的に行っています。

そんなFOOD LOSS BANKがこのたび、野菜や豆、穀物などの植物を可能な限りまるごと“ぜんぶ”使った食品で話題のZENB(ゼンブ)とコラボレート。野菜とオリーブオイルだけを使用した濃厚な「ゼンブ ペースト」や、ひとくちサイズの「ゼンブ ベジ バイツ」など、多彩なラインナップが揃うなかでも、人気の高い「ゼンブ スティック」とダブルロゴで数量限定発売を開始するにあたり、オリジナルパッケージの製作に携わりました。

アーティストの佐々木卓也さんによるイラストを起用した色鮮やかなデザインは、各方面からさっそく注目の的に。そこで今回は、杉山さんをはじめ、ZENB開発担当の長岡雅彦さん、アーティストの佐々木卓也さんに、コラボレーションに至るまでのストーリーや制作時のエピソードなどを伺います。

 

佐々木卓也氏
1975年生まれ。東京都在住。自閉症という特性をもつ、感性豊かなアーティストとして活躍。幼少期より、絵を描いたり粘土細工をしたりすることを好み、動物や人物をモチーフに作品を制作。14歳の時に、絵画が文部省著作教科書(東京書籍)に採用。1996年7月に東京・京橋のINAXギャラリー2で初の個展を開催。以降、数々の展覧会や個展に出品した大胆で色鮮やかなアートが話題に。人気レストランやスターバックスカフェなどで作品を常設展示。オリパラ公式文化プログラム「東京2020日本フェステイバル」世界配信映像“MAZEKOZEアイランドツアー”(総監督東ちづる)に出演。現在はIT企業エーピーコミュニケーションズに正社員として採用され、アーティストとして業務にあたっている。

佐々木卓也 公式サイト http://takuya.page.ne.jp/
オリパラ公式サイト https://nippon-fes-one.tokyo2020.org/

 


両者の環境への想いがマッチして生まれたプロジェクト


動物原料を使用せず、植物を最大限に活用しているというZENB。2019年にローンチされてから、杉山さんがずっと気になっていたブランドだったのだそう。今回FOOD LOSS BANKとコラボレーションをするに至った経緯を教えていただきました。

杉山絵美(以下、杉山):「FOOD LOSS BANKをご存じない方のために、まずは弊社についてお話しさせていただきますね。そもそも私がフードロスを身近に感じるようになったのは、昨年、Oisixのミールキットをプロデュースさせていただいたことがきっかけです。その際に、家庭でもレストランでも、まだ食べられるのに捨てられている食品がたくさんあるという現状を知りました。また生産者さんからの『形が悪かったり規格外のサイズだったりすると売れ残ってしまう』とか、『コロナ禍によって食材が余ってしまう』とかいった話にも心を痛めていたんです。

そんな折、かねてから世界のフードロス問題に着目していた山田から起業の相談を受けているうちに、私の想いとぴったりリンクすることが分かって。あっという間にFOOD LOSS BANKを設立し、『多くの人をつなぎながら、食品ロスの削減とその先にある自然環境の改善を目指す』という大きな目標を掲げて活動することになりました。そうしていろいろなプロジェクトを進めているなかでZENBさんの商品を知り、さらに『植物を可能な限りまるごと食べることで、人や環境にいい食のスタイルを実現する』という素晴らしいコンセプトにすっかり共鳴。私たちの想いに相通じるものがあるZENBさんと、何か活動をご一緒できることはないかと長岡さんに直談判させていただいたことから、このプロジェクトが始まりました」

ZENB(ゼンブ)はミツカングループが「地球に優しく、美味しくて体にいい、を叶える食生活の実現」を目指して立ち上げたブランド。豆100%のゼンブヌードルと専用のスープヌードル調味料(トマトチリ、オニオンポタージュ、野菜だしみそ)は大人気商品。


ZENB JAPAN 長岡雅彦(以下、長岡):「環境や未来の社会のことを考えて、今やるべきことを一歩ずつやっていこうという私たちの考え方と、FOOD LOSS BANKさんの理念にはかなり近いものを感じました。それでぜひ一緒にコラボレーションをしましょう、ということで、パッケージデザイン制作にご協力いただくことになったんです。

そこで今回お願いしたのが、『ゼンブ スティック』のコーンとパンプキンの2種類。いずれも、とうもろこしの芯やかぼちゃの種、ワタなど、普段は捨てられている部分までまるごと使っている商品です。ZENBのラインナップのなかでもとくにブランドのコンセプトが分かりやすいということと、食べることができて普段の食生活に取り入れやすいということから、コラボレーション商品に選ばせていただきました」

ZENBとFOOD LOSS BANKがコラボし、限定オリジナルデザインの「ゼンブスティック」を、1000セット限定で発売。普段食べられていない野菜の皮や芯には栄養がたっぷりあり、たとえばコーンの芯には食物繊維が実の部分の約2.7倍含まれている。それを独自技術で濃縮し、手軽に食べられるスティックとして製品化した。


パッケージにはアーティスト・佐々木卓也氏の作品を採用


そのパッケージを彩るのは、アーティストの佐々木卓也さんが描いた色鮮やかでダイナミックなイラスト。自閉症という特性のある佐々木さんは、そのビビッドな感性を活かし、人々が一瞬で目を奪われてしまうような作品を作り続けています。今回、ZENBのパッケージ制作に起用するよう働きかけをした杉山さん自身も、出会った頃からその作品に一目ぼれし、絵を買い続けているというほど魅了されているのだとか。

パッケージに採用された佐々木卓也氏によるとうもろこしの絵。実のひとつひとつが生き生きと描かれている。
とうもろこしは水彩絵の具で描いたのに対し、いろいろな色、形のかぼちゃはアクリル絵の具で描いた。いつも描く絵によって自由に画材を選ぶのだという。

杉山:「障害や病気、国籍、性別などの理由から生きづらさを抱えるマイノリティを排除せず、みんな“まぜこぜ”の住みやすい世界を作る。そんな主旨を持つ一般社団法人『Get in touch』の理事長を務める女優の東ちづるさんが主催された展覧会で約10年前、初めて卓也さんにお会いしました。その展覧会で卓也さんは動物の絵を出品していらしたのですが、色彩感覚の素晴らしさにもう一瞬で目を奪われましたね。卓也さんの絵を見ているだけで、気分が明るく元気になってくる。そんな力強いパワーをもっているところにひかれ、すぐに絵を購入させていただきました。以来、今に至るまでご縁が続いています。

左から・佐々木卓也さんのお母様で佐々木睦子さん、杉山さん、フードロスバンクの山田さん、佐々木卓也さん、東ちづるさん。9月末に行われる国連食料システムサミット関連イベントの企画打ち合わせにて。

卓也さんは自閉症を持っていますが、それは“特性”なのだと私は思っています。確かに、私たちの得意なことが卓也さんにとっては苦手なことかもしれません。でもその逆に、素晴らしい色彩感覚や、多くの人を喜ばせるような絵を描く技術など、卓也さんならではの得意なこともたくさん持っているからです。東さんが仰っているように、そうした個性を認め合えるような“まぜこぜの社会”になっていくといいなと。それで、私の大好きな卓也さんの絵をパッケージのデザインに起用していただけないかと、長岡さんにご提案させていただきました」

左上から、佐々木卓也氏、mi-mollet編集長川良、ライター河野、左下からZENB JAPAN長岡氏、FOOD LOSS BANK杉山絵美氏


長岡:「杉山さんとの打ち合わせのあと、わずか数日で佐々木さんの絵を何枚も送っていただいたので、そのスピード感に驚きました。そして確かに素晴らしい絵だったので、すぐに使用させていただくことを決定。それからは短期間のうちにプロジェクトが進んでいきました。細長いパッケージに合わせて原画をトリミングするのに苦心しましたが、グラフィックデザイナーの佐藤卓さんの手腕によって、バランスのいいデザインに落とし込めたなと思っています」

 
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