認知症予防に直接有効な薬というのは、あるのでしょうか。薬の開発はどこまで進んでいるのでしょう。ここでは、予防薬にもなるのではないかと期待されている薬の、最近の研究結果に迫ってみたいと思います。
有効な薬を生み出すためには、多くの場合、まず病気の原因をしっかりと究明する必要があります。原因が分かれば、原因にアプローチするような薬を考えれば良いわけですが、原因が分からないと薬を闇雲に試すということになってしまいます。
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脳細胞に対して毒性を持つAβに注目
認知症の最多の原因であるアルツハイマー病。現在までに分かっている事は、アルツハイマー病の患者さんの脳の中には、老人斑と呼ばれる沈着物が発症の比較的早期から認められ、その主要な構成成分がAβ(アミロイドβタンパク)であるということです(参考文献1)。
Aβは、周囲の脳の細胞に対して毒性を持つことが分かっており、Aβが蓄積すると周囲の細胞の死が導かれ、脳の機能が低下してしまいます。これが少なくとも病気の原因の一部を担っているのではないかと考えられてきました。
このため、Aβを減らせば脳の機能低下が防げるのではないかと考えられ、Aβの合成を止める薬剤が開発されました。この薬剤を投与すると、確かにマウスの脳内でAβの減少が観察され、行動学的な改善まで認めらました(参考文献2)。
その結果、この薬には大きな期待が寄せられることになりました。マウスでの成功を経て、引き続き人でも臨床試験が行われました。しかし、とても残念なことに、薬剤が投与された患者さんは、むしろ認知症が進行してしまうというマウスとは全く逆の結果となってしまいました(参考文献3)。
このように、マウスで良い研究成果が出ても、人では全く逆の結果になってしまうということは医療の世界では稀ではありません。
新聞や雑誌の記事などで、マウスでの研究結果をもって、「画期的な治療薬が開発された」と話題になることがありますが、マウスの研究結果だけでそう言うのはかなり時期尚早なのです。
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