冒頭の友人の複雑な思いは、50歳という年齢ならではかもしれません。30代だったら、まだ組織の中でやれることもあると思えるし、起業や転職で失敗しても、出直す余裕があります。この先の人生に、想像もつかない大きなギフトが用意されているかも! と妄想することだってできます。年齢を重ねると、以前ほどそういう気持ちにはなれないのが寂しく、心許ないのでしょう。私も最近、「ワクワクしながら開けた箱の中身を、49年でだいたい見尽くしてしまった気がする。期待して箱の底を覗き込んでも、もう何も現れないのだろう」という気持ちになることがあります。以前、今年98歳になる佐藤愛子さんにそうぼやいたら「私の半分しか生きていないのに、何を言っているの」と笑われて元気になりましたが、それでも自分の残り時間は分かりませんから、なんとなく、すでに通り過ぎてしまったものとして世界を眺める癖がついてしまいました。
とまあ、加齢の寂しさを実感するお年頃ではありますが、一方で50代は新たなことを始めるのにちょうどいい時期だとも思います。豊富な経験があり、人脈も広く、野心はおおかた飼い慣らし、自身の取り扱い方も熟知している。承認欲求が減る一方で、感謝の気持ちは豊かになる。だからこそ、謙虚に新しいことを学べるんじゃないかと思います。50代はその体力と知力がまだたっぷりある年齢。中には、プライドが邪魔をして「知らない」って言えない人もいるでしょう。そのまま歳を重ねるとどんどん視野が狭くなってしまいます。あえて「初心者」になって魂のiPS細胞を起動すれば、素直な自分に戻れるかも。
副業やプロボノなどで違う環境に身を置くと、一車線だった仕事人生が、二車線になります。走り慣れた道ではベテランとして後進を見守り、初めての道では素直な気持ちでハンドルを握る。副業探しは老後の備え……と守りに入らず、まずは理屈抜きで、好きなこと、楽しそうなことに、目を向けてみるといいかもしれませんね。
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