自分というコンテンツを飽きるまで楽しみ尽くして
長濱:人って変わると思いますか? 自分を変えることはできると思います?
本谷:自分を変えることはできると思います。他人は知らないけど(笑)。
長濱:本谷さんは変わったなと思いますか?
本谷:変わったは変わった。年齢とともに。18歳で東京に出てきた時は「人に馬鹿にされたくない」とか「人からどう思われるか」って事しかなかったから、本当にしんどくて。自分の中に自意識の化け物みたいなのがいて、「一生こいつといたら死んじゃう」と思ったけど、今は本当に見る影もなく。自分のことは基本的にどうでもいいし、ネットで何か言われても「そういう人がいるんだな」くらいだし、ボロボロの格好で保育園とかにお迎えに行くのも平気。18歳の自分からしたら、ちょっと信じられない。
長濱:それは意識的に? それとも自然治癒ですか?
本谷:意識はぜんぜんしてない、ただただ本当にどうでもよくなっていったんですよ。心配なくらいです。
長濱:今私には化け物が宿っているけど、なんとなく、いなくなっていくんですか。
本谷:人それぞれだからね。でも昔の私は自分に興味が向きすぎていて、「こんな滑稽な、面白い生き物いない」って思ってたんです。それで小説に書いてたんだけど、でもある時、「なんかもういいや」って飽きたんだよね。それで外に目が向いたら、自分より面白いものがいくらでもあった。
長濱:それは何歳ぐらいの時だったんですか?
本谷:「私」という一人称で小説を書くのをやめたあたりで。自分ってもっと面白いかなーって、過大評価してたんですよね。
長濱:なんかすごくわかります。私も自分を卑下するし最悪だって思うわりに、自分はもっとできるはずって期待しちゃう自分もいるので。自分をコンテンツとして楽しみ尽くすって、なんか新しい。どうしていったらいいんだろう。
本谷:だからもしこれが人生相談なら、自分のことを考え尽くしてみたらいいと思う。若い子が自分のことをたくさん考えるのは食事とか排泄と同じくらい生理現象な気もするし。だってねるちゃんの年齢で私みたいに「どうでもいいんだよね」って言ってたら、「大丈夫?」って思うじゃない(笑)。20代で散々それを味わっておけばいいよ。考えて考えて考え抜いた先に、また次のステージに到達できたらいいよね。
長濱:それは希望の言葉です。光が見えた気がします。
本谷有希子×長濱ねるの写真をもっと見る
▼右にスワイプしてください▼
本谷有希子(Yukiko Motoya)
1979年、石川県生まれ。2000年「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手がける。主な戯曲に『遭難、』(第10回鶴屋南北戯曲賞)、『乱暴と待機』、『幸せ最高ありがとうマジで!』(第53回岸田國士戯曲賞)などがある。主な小説に『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』、『生きてるだけで、愛。』、『ぬるい毒』(第33回野間文芸新人賞)、『嵐のピクニック』(第7回大江健三郎賞)、『自分を好きになる方法』(第27回三島由紀夫賞)、『異類婚姻譚』(第154回芥川龍之介賞)、『静かに、ねぇ、静かに』など。近年、著作が海外でもさかんに翻訳され、『異類婚姻譚』『嵐のピクニック』を始め、世界9言語で出版されている。英語版は The New Yorker、The New York Timesなどで大きな話題となった。
長濱ねる(Neru Nagahama)
1998年9月4日長崎県長崎市生まれ。3歳から7歳まで長崎県五島列島で育つ。2015年「欅坂46」のメンバーとしてデビュー。2019年7月にグループを卒業。現在は、書籍情報誌でエッセイ連載や、TV番組「セブンルール」「legato~旅する音楽スタジオ~」のMC、ラジオJ-WAVEにてナビゲーターを務めるなど多方面に活躍中。趣味は読書。
(長濱さん着用衣装)
シャツワンピース¥43000/キディル(サカス ピーアール) レザーパンツ¥20000/ハチイチブランカ(ウトス ピーアール) ネックレス¥13000/フォークバイエヌ(ウトス ピーアール) イヤーカフ¥18000/ルフェール(ウトス ピーアール)
<新刊紹介>
『あなたにオススメの』
本谷有希子(講談社) ¥1870
気づけば隣にディストピアーー
世界が注目する芥川賞作家・本谷有希子が描く、心底リアルな近未来!
「推子のデフォルト」
子供達を<等質>に教育する人気保育園に娘を通わせる推子は、身体に超小型電子機器をいくつも埋め込み、複数のコンテンツを同時に貪ることに至福を感じている。そんな価値観を拒絶し、オフライン志向にこだわるママ友・GJが子育てに悩む姿は、推子にとっては最高のエンターテインメントでもあった。
「マイイベント」
大規模な台風が迫り河川の氾濫が警戒される中、防災用品の点検に余念がない渇幸はわくわくが止まらない。マンションの最上階を手に入れ、妻のセンスで整えた「安全」な部屋から下界を眺め、“我が家は上級”と悦に入るのだった。ところが、一階に住むド厚かましい家族が避難してくることとなり、夫婦の完璧な日常は暗転する。
撮影/目黒智子
ヘア&メイク/橋本庸子(本谷さん)、風間裕子(長濱さん)
スタイリング/橋本庸子(本谷さん)、市野沢祐大(TEN10・長濱さん)
取材・文/渥美志保
構成/川端里恵
Comment