言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。
そこにはきっと、彼女たちの「守りたいもの」がかくれているのだ。
これは、それぞれが抱いてきた秘密と、その解放の物語。
そして三人目は、とある秘密を抱えながら、おひとりさま生活を満喫する弘美の物語。
第7話 出版社勤務・弘美(43)の話【前編】
「今月も、校了~! お疲れさまでした!」
「うえ~い終わった~、編集長おつかれさーん」
入稿を完了し、思わず歓声をあげた編集長の弘美に呼応して、4人の野太い声がゆるゆると響く。
部下というにはいささか皆、歳をとっていて全員がアラフォー男子。弘美が勤める旅の専門出版社には、職人気質のベテラン編集者が集まっていた。
弘美のチームは、シニア向けのラグジュアリー旅やロングステイをテーマにした月刊誌を作っている。編集長になってから10冊目を校了した弘美は、デスクに突っ伏した。
「最後、皆で死力を尽くしたから、いつもより早めに終わったね。夜何か食べて帰るひとー?」
弘美がよろめきながら帰り支度をしてハンドバッグを肩にかけると、チームメンバーの4人全員が手を挙げた。何を隠そう、全員独身なのだ。弘美を含め、校了明けにクタクタで帰宅しても家でごはんは出てこない。
「誰も締切明けの金曜に予定がないとか、切ないね……私を含め」
弘美は、ははと笑いながら皆に手招きをした。
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