言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。
 
そこにはきっと、彼女たちの「守りたいもの」がかくれているのだ。
 
これは、それぞれが抱いてきた秘密と、その解放の物語。

これまでの話航空会社で総合職として働く有希(38)は、大学時代からの大恋愛を実らせて結婚したにもかかわらず、離婚してシングルマザーに。そのことを職場で言いそびれたまま、半年が経ってしまう。目標だったシアトル出張に抜擢されるが、3歳の娘・玲菜の預け先がなく、後輩の麻衣(28)に譲ることに。そんな中、元夫の良平(38)から着信があり……?
 


「優しい嘘をひとつだけ」連載一覧はこちら>>
 

 


第6話 航空会社総合職・有希(38)の話【後編】


「玲菜!! 元気だったか、会いたかったよ~」

良平は駆け寄って来た娘を抱きしめると、そのまま芝生の上に腰を下ろした。

土曜の昼下がり、晴れた秋の芝公園は家族連れで溢れ返っている。有希は、久しぶりに自分が「大多数」側になったことにどこかでほっとする。

同時に、この半年、常に「じゃない側」だと疎外感を感じていた自分の考え方を哀しく思った。

シャボン玉飛ばしに熱中する良平と玲菜を眺めながら、レジャーシートを広げ、水筒やお菓子をセットする。頃合いを見て自分だけ抜けるつもりだ。

1日中、家族ごっこはまだ無理だ。もう家族じゃないのだから。

先日、就業中に良平から電話がかかってきたのは驚いた。なにせ離婚してから連絡を取るのは月に1回、玲菜と良平が遊ぶときだけ。当日も、朝に玲菜を預けて、夕方送り届けるときに言葉を交わす程度。

それが定型化する中で、この前電話で良平が口にしたのは予想もしない提案だった。