言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。
そこにはきっと、彼女たちの「守りたいもの」がかくれているのだ。
これは、それぞれが抱いてきた秘密と、その解放の物語。
第6話 航空会社総合職・有希(38)の話【後編】
「玲菜!! 元気だったか、会いたかったよ~」
良平は駆け寄って来た娘を抱きしめると、そのまま芝生の上に腰を下ろした。
土曜の昼下がり、晴れた秋の芝公園は家族連れで溢れ返っている。有希は、久しぶりに自分が「大多数」側になったことにどこかでほっとする。
同時に、この半年、常に「じゃない側」だと疎外感を感じていた自分の考え方を哀しく思った。
シャボン玉飛ばしに熱中する良平と玲菜を眺めながら、レジャーシートを広げ、水筒やお菓子をセットする。頃合いを見て自分だけ抜けるつもりだ。
1日中、家族ごっこはまだ無理だ。もう家族じゃないのだから。
先日、就業中に良平から電話がかかってきたのは驚いた。なにせ離婚してから連絡を取るのは月に1回、玲菜と良平が遊ぶときだけ。当日も、朝に玲菜を預けて、夕方送り届けるときに言葉を交わす程度。
それが定型化する中で、この前電話で良平が口にしたのは予想もしない提案だった。
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