ミモレで2021年に公開された記事のうち、特に人気があったものをご紹介します。よろしければぜひご一読ください。

コロナ禍で加速した動画配信サービス、ネットフリックスの浸透。すきま時間に見始めて止まらなくなった、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。現在世界的に話題の『イカゲーム』をはじめ、日本でも『全裸監督』や『愛の不時着』で話題をさらったネットフリックスがひとり勝ちしている状況です。

ミモレのエンタメ連載でもお馴染み・長谷川朋子さんの最新作『NETFLIX 戦略と流儀』(中公新書ラクレ)から、こんまりさんの片づけ番組『KonMari ~"もっと"人生がときめく片づけの魔法~』を一例に、その戦略を解説します。アメリカでは、こんまり流片づけ=「Kondo-ing(コンドーイング)」という動詞が一般化されるほどの社会現象となったこんまりさんの番組が、世界中で視聴されるようになった理由とは……?


ネットフリックス作品における日本ブームは『KonMari』から


ネットフリックス作品における日本ブームを作り出したのは、「片づけコンサルタントの「こんまり」こと近藤麻理恵氏が指南する『KonMari~人生がときめく片づけの魔法~』であることに疑問の余地はないでしょう。ネットフリックスはアメリカ本社が発表したプレスリリースで「近藤麻理恵さんのメソッドが世界で片づけに対する見方を変えた」と、改めて番組の功績を称えています。2019年1月1日に世界配信された当時、アメリカでは社会現象となるほどの人気ぶりで、こんまり流片づけ=「Kondo-ing(コンドーイング)」という動詞が一般化されたほど。日本ではベストセラー本『人生がときめく片づけの魔法』からこんまり人気が始まっていますが、海外ではネットフリックスの番組によって不動の地位が確立しています。

Netflixシリーズ『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』独占配信中


片づけを通して見えるアメリカの素顔


そんな大成功を収めた番組が一貫して伝えているメッセージは、「自宅に溜め込んでしまったガラクタを一掃して、前に進もう」というもの。こんまりが救世主となって、人生をときめかせるために手助けをしていきます。場所別ではなく、モノ別に片づけることを提唱する、こんまりメソッドの基本から、服や靴下、ネクタイなどのアイテム別の畳み方などもカットインされ、片づけのノウハウを知りたい視聴者のニーズに応えていきます。そして、単なる片づけ推奨番組に終わらない演出も人気の秘訣と言えるでしょう。今どきのリアリティショーらしく、こんまりが訪問する家族の人選に多様性を持たせ、その素顔と社会的背景がみえる内容にも仕上がっているのです。ハリウッドで名を馳せる凄腕女性クリエイター、ゲイル・バーマンが番組のエグゼクティブプロデューサーとあって、その辺りも抜かりがありません。

Netflixシリーズ『KonMari ~"もっと"人生がときめく片づけの魔法~』独占配信中

シリーズは全8話で構成され、人生の岐路に立った全8組の家族に、1話ごとに密着しています。新婚カップルや第一子の出産を控えた夫婦、育児奮闘中の働くパパママ、引退生活に入る熟年夫婦、夫を亡くし第二の人生を踏み出す女性などが紹介され、共感できそうな話からピックアップして観るのが筆者のオススメ。その中で、日本人が最も参考にできそうなエピソードが「3話目 ダウンサイズ」。寝室が4つあるミシガン州の豪邸から、ロサンゼルスの手狭なアパートに引っ越してきた家族の話です。日本の住宅と似通ったサイズの住まいで、映し出されるリビングルームもキッチンも、主寝室も子ども部屋も物で溢れかえっています。見つからない物があれば「ママに聞けばいい」と、子どもも父親も母親に頼りきり。そんな悩ましい状態から、家族全員が物理的にも精神的にもときめく住まいへと変貌させるのが近藤麻理恵さんの「魔法」です。

 


“ときめきで選ぶ”のはアリ?ナシ?


番組が配信されたばかりの頃、注目を集めた一方で、本を廃棄するワンシーンがアメリカで物議を醸したことがありました。一部の読書家から、「ときめくか、ときめかないか、その二択で所有する本の運命を決めるのはナンセンス。本の廃棄を一時の感情で選ばせるべきではない」といった非難の声が上がったのです。本に限らず、服や小物、思い出の品であっても自分に適した片づけ方法はあるわけだから、自分のときめき方にこだわることが大事であるとの番組のメッセージに対して反発も起きたことは、その影響力を物語っていると思います。

Netflixシリーズ『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』独占配信中


コロナ禍で再び片づけが世界でブームに


その後2020年になって、ブームは再び起こります。コロナウィルス感染拡大防止のために世界中でロックダウンが続いたさなか、ツイッター上で「Kondo-ing」と呟くツイートが多くみられたのです。再びこんまりにフォーカスする海外メディアが増え、英経済紙フィナンシャル・タイムズ4月1日掲載の記事は、働く世代に向けてこんまりを紹介するものでした。こんまりメソッドはビジネスでも活かすことができ、「リモートワーク環境を改善するために単にデスク周りを整頓するだけでなく、先行きが見通せないキャリアそのものも見直すきっかけになる」と意見し、最後に「仕事に対する『ときめき』が本当にやりたいことを気づかせる」とまとめていました。書籍や番組を通じて広がった「こんまりメソッド」は非常時の生活にインスピレーションを与えたのです。

Netflixシリーズ『KonMari ~"もっと"人生がときめく片づけの魔法~』独占配信中

まさにこの仕事にフォーカスした新たな番組も作られました。それが2021年8月31日に全世界配信されたミニシリーズ『KonMari ~“もっと”人生がときめく片づけの魔法~』です。家から飛び出し、職場や地域コミュニティの場でこんまり流の整理整頓のプロセスを踏みながら、“ときめき”を見出していくという内容になります。配信直前の8月某日、アメリカ在住の近藤麻理恵氏とオンライン上でインタビューする機会が設けられ、番組を通じて最も伝えたかったメッセージを尋ねると、近藤氏は「片づけをしたからハッピーになったということを見せたかったわけではありません。番組をご覧になった方にも人生を見つめ直すきっかけを作り、実際にアクションを起こして、変化に繋げて欲しいという想いを込めています」と答えました。つまり、自分ごと化できる番組を目指したということ。このインタビューの後、実は新たな棚を購入しました。これでしばらく積み上がっていた書類が崩れ落ちてくることはなさそうです。その気にさせるのが『KonMari』の醍醐味なのでしょう。

この記事は2021年10月28日に配信したものです。
mi-molletで人気があったため再掲載しております。


 

 

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1-9:Netflixシリーズ『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』独占配信中
10-11:Netflixシリーズ『KonMari ~"もっと"人生がときめく片づけの魔法~』独占配信中 

『NETFLIX 戦略と流儀』
長谷川朋子著 中公新書ラクレ

映像業界の異端児は、どこへ向かうのか――。
ネットファースト展開というビジネスモデルでエンターテインメント業界へ風穴を開け、既存の慣習を壊しながら驚異的な成長を遂げている米動画配信大手ネットフリックス。『ハウス・オブ・カード』の成功から、2019年には『ROMA/ローマ』でアカデミー賞を受賞。日本でも『全裸監督』や『愛の不時着』で話題をさらった。オリジナルコンテンツでヒット作を生み続ける彼らの、独自の戦略と流儀とは何か。その全貌と裏側に迫る。