細かいところまで全部説明すると、どんどんよくなる


――本公演の台本を子供たちがそのまま演じるというのは、とてもユニークな試みですよね。

(大人の)SETの本公演は社会的なテーマをミュージカルアクションコメディにして、最後に感動できるようなストーリーを作り、劇団員の個性に合わせた演出をしてひとつの作品にしていきます。社会的な要素があるということはシリアスなシーンも出てくるのですが、子供が演じることによってコメディチックになる。子供たちの個性に合わせて調整していく過程では、今まで自分がいかに劇団員のキャラクターに寄りかかって舞台を作ってきたのかがわかりました。逆に大人に当て書きしたものを子供たちがそのままやることによって面白くなったり、ハートにくる場面になったりすることもあるんですよね。僕自身の視点の変化もあって、非常に勉強になります。

――演出をする際、子供たちへの伝え方のコツはありますか?

SETの演出では、みんなの前でここまで言ったらかわいそうかな、と大人のプライドを大事にしていたところもありました。でも子供たちには細かいことまで全部説明すると、やっぱりどんどんよくなる。この経験を通して、大人にも説明をした方がいいいんだな、と思うようになったんです。役者たちは、そんなことまで言われなくてもわかってるよ……! と思っているかもしれませんが(笑)。

三宅裕司さん、70歳。笑いを追求し続けて、いま子供たちに伝えたいこと_img0

 

――笑いを生み出すための演出については、大人と子供では何か違いはありますか?

僕は演出する時ストーリーとは別に、お客さんが爆笑するかどうかの「ギャグチェック表」を作ります。それが2時間の芝居で100個以上あって、初日に「ウケたところとそうでないところ」をチェックして直していくんですね。こどもSETでも同じようにチェックをするのですが、役者のキャラクターには頼れませんから、本当に面白いかどうかがすごく試されるんです。設定やセリフ、あるいは演技の間(ま)や表情はどうだったのか、“本当のこと”を見抜かないと子供たちには演出はできないんですよね。自分にとっても過酷なことですが、先ほども話したように、説明すれば子供たちはうまくできるようになるし、僕たち大人は子供たちを演出しながら笑いの本質と向き合うことになり、いい循環が生まれています。

 


「覚えてきたセリフを言う」癖をやめさせてみる


――お芝居の指導で心がけていることも教えてください。

一番大事なのは、相手のセリフを聞いて自分の気持ちがどう動くのか。前の人がセリフを言い終わったら自分が覚えてきたセリフを言うという癖がついている子が多いのですが、それだとリアリティが生まれませんから、まずはそこから直していきます。相手の言うことをちゃんと聞いて反応する訓練を重ねると、アドリブができる役者にもなれますしね。これは普段の会話でも大事なことで、こういうインタビューでも僕が話しているときに次の質問を考えている人はすぐにわかります(笑)。“聞く”ということは、夫婦の会話でも何でもコミュニケーションの基本になるものだと思いますね。

――人を笑わせるのは泣かせるよりも難しい、とよく言われますよね。

テレビの生放送などでも「最近の奥さんの面白い失敗談はないですか?」ってよく聞かれるんですけど、先にオチを言っちゃったな、どうしよう……と思いながらしゃべっていることもありますよ(笑)。先に言っちゃったから全然面白くないですよねとあえて言うことで笑いを取る方法もあるし、いつまでたってもいろいろな経験をしながら勉強中という感じです。こどもSETも3年目になって、やっと「自分で考えてきたので、やってみていいですか?」と提案してくる子が増えてきました。それはいいことなのですが、稽古場でやったことから発展させた笑いが多いので、お客さんには伝わりづらいものが多いんですね。本番では通用しないから使えないよとしっかり説明しますが、その感性は大事にしよう! と伝えるようにしています。大人に対しては、そんなの使えるわけないだろう! で終わりですけど、子供には考える気力を残すことが大事ですからね。