学生時代、仏文科だった私は気楽な気持ちでパリに留学し、日本レストランでのバイト中にカンタンに出会った。卒業後はフランスに舞い戻ってカンタンと暮らし始め、様々なバイトを経て日本食材の輸入を営む小さな日系企業に就職したのが三年前。

コロナが本格化する少し前に正社員になれていたことは、本当に幸運だった。日本食ブームや家消費拡大の流れで事業は好調なものの、国際便の本数は減り、遅延などマイナートラブルも多い。が「ケセラセラ」、「なるようになる」で今のところなんとかなっているのだから驚かされる。実際、深く悩んだところでどうしようもない。私がフランスで学んだ最も大切なことは「諦めることの重要さ」だ。

移民として本格的に渡仏してからは、思うようにならないことが多すぎてストレスで毛が抜けたりもした。物事を重く考えすぎないよう意識的に訓練して、ようやくフランス人のいうところの「ZEN(禅)」の精神を会得しつつあるのではないだろうか。

それでも、人間関係については未だにつまずいてしまう。

「仲が良すぎる」夫の家族_img4
 

――マルゴもパスカルも、先月はあんなに幸せそうだったのに……

ため息を吐かずにはいられない。

二人は「事実婚祝い」をしたがったものの、三度目のロックダウンの真っただ中で集まることができず悔しがっていた。

 

コロナ禍で新たに加わった習慣のひとつに、「月一の家族オンラインアペロ」があり(この数時間が当初はかなり負担だったりもした)、お祝い代わりにささやかながらパソコン画面越しに皆で乾杯をした。

マルゴは美しい気泡を立ち上らせるフルートグラスのスパークリングワインを掲げると、喜々と顔を輝かせたものだ。
「アパルトマンも買うから、ロックダウンが明けたら遊びに来て!」

PACSにおける財産管理の原則は、カップルの各自それぞれに帰属する「別産制」であるものの、マルゴとパスカルは「共有制」を選んだので、不動産を買えば共有財産になるらしい。

PACSのメリットは社会保障など様々だが、フランスは世帯毎の確定申告なので、共同生活を送るカップルは特に税金面で利点があるという。カンタンの友達を見回してみても、結婚しているカップルは皆無な半面、PACSをしているカップルは数組いる。

良いことずくめに聞こえるPACS。でも、フランス人と外国人の自分が結ぶのは、意外にもとても面倒くさかった。日本から取り寄せる書類もあり、それを在仏日本大使館か法定翻訳家に依頼してフランス語の公的書類に直してもらうなど、手間もお金もかかる。全てを揃えて申請するまで何ヵ月もかかり、国際結婚する手間とほとんど変わらないように思えた。

滞在許可証取得の確実性も考えれば、結婚してしまったほうが得では……とくじけそうにもなったけれど、私もカンタンも「結婚」に夢を持てないのは確かだ。

二人の今後のことは、何度も話し合ってきた。

「お互い必要として、必要とされているから一緒にいる。結婚という誓約まで必要だろうか」

カンタンの言葉は単なる青臭い理想かもしれない。それでも深く頷けるものだった。

私は「家族」というのが、少し怖いのかもしれない。


パリの街角のリアル
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祐希が事実婚を選んだわけとはーー。

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撮影・文/パリュスあや子

 
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