パラダイムシフトの今、「美の価値観」を刷新し続けてきた美容ジャーナリスト齋藤 薫さんが、注目したいある視点をピックアップします。

 


見てはいけないものを見てしまった感


たまたま見た記事に、ファーストクラスに乗る女性客の振る舞いの素晴らしさを書いたものがあり、ずっと心の奥歯に引っかかっていました。いよいよ海外旅行も解禁のタイミング、改めてこの“飛行機の機内だけに生まれる階級”について考えてみたいと思ったのです。

 

ざっくり言えばそれは、ファーストクラスの顧客は「品格もマナーも一流である上に、機内での過ごし方もスマートで知性に溢れ、人間的に素晴らしい!」と絶賛する内容。対して、ビジネスやエコノミークラスには横柄で我が儘な客も少なくないという論調。ちょっと見てはいけないものを見てしまった感がありました。

その時初めて知ったのは、こうしたファーストクラスの顧客絶賛本は案外昔から世に出回っていたこと。筆者は元CAである場合も多く、もちろん中にはフェアな視点で真実を鋭く指摘する記事もあるけれど、ファーストの顧客を持ち上げるために、下々を犠牲にする内容が少なくないのも事実。案の定と言うべきですが、そういう目で見られていたのかと思うと、やはり穏やかではないのです。モノの道理として、ファーストの客の方が高慢だと収まりが良いのに、まるで逆であると指摘されるのですから。


隠れている本性が顔を出す異様な環境?


人間は、飛行機に乗ると隠れていた本性が顔を出す生き物である、などとも言われます。普段、電車にはおとなしく乗る人が飛行機になると急に我が儘になったりするのも、非常に狭い空間に、無理矢理クラスを作っているからに他ならないと。ある機関の調査では、エコノミーの乗客が上のクラスのスペースを通り抜けて自分の席に行く構造だと、上のクラスの乗客はより傲慢になり、エコノミーの乗客に横暴な人が増える傾向があるのだとか。そういう意味ではなかなかに異様な環境と言うほかありません。

実際、世の常として、ファーストにはやっぱりモンスターがいて、各航空会社で共有されるブラックリストがあるとも言われるし、ビジネスの乗客には、組織における序列を機内に持ち込むタイプが少なくないことから、ファースト〉エコノミー〉ビジネスとの順番で、乗客のタイプを格付けする記事もあるほど、厄介な客が多いとの説も。

とは言えおそらく上位クラス担当のCAほど、理不尽な要求を受けることも多く、我々の想像を超える辛い経験をしているはず。だからファーストクラスに人格者が乗ると仏に見える日もあるのでしょう。威張っていて当然の大金(エコノミーの約10倍?)を払っているのに、威張らないなんて素晴らしい……それがファースト顧客絶賛のモチベーションになっているのかも。人として当たり前の振る舞いも、ファーストの顧客だと人格者に思えてしまうほど、“機内だけの階級”はあらゆる立場の人のバランス感覚を乱してしまうのではないかと思うのです。