フランスの家族はよく集う。

少なくともコロナ前はカンタンの地方の実家に、週末やヴァカンスごとに頻繁に泊まりに行ったし、誰かの誕生日やお祝いとなればパーティーもした。

日本でも仲良し家族なら普通のことなのかもしれないけれど、我が家にそんな習慣はなく、これほど濃密な付き合いは新鮮な驚きだった。

それにカンタンの両親は幼い頃に離婚して、それぞれが家庭を築いているから、家族が巨大化していて複雑だ。

今週は母の家、来週は父の家。その翌週は兄の誕生日、その翌週は父の奥さんの退職祝い。クリスマスイヴは母の家だから、クリスマスは父の家。今年のヴァカンスは母方の家族旅行だから、来年のヴァカンスは父の別荘……。

とにかく目まぐるしい。親戚が多すぎて、更に別れたりくっついたりがあり、顔も名前も、関係性も覚え切れず、未だにこんがらがる。

トーフに好きなだけケチャップとマスタードを_img4
 

中でも特によく集まるのがカンタンの母の家。事実婚でも「ベルメール(義母)」と呼んでいいのか悩ましい(誰もが下の名前で呼び合うから、説明するのにちょっと面倒なだけで、普段は気にしていないけど)。

カンタンの母と実質的にカンタンの父にあたる彼氏(二人はバツイチ同士で再婚していない)、兄と時々その子供たち(離婚した奥さんの元から週一で会いに来る)、マルゴとパスカル、私たちも入れれば七人以上で、昼から夜まで延々と食べては飲んで語り合うのが家での過ごし方。とはいえ、私がフランス語に集中できるのは三時間が限度なので、丸半日となると途中でプツリと脳がショートする。

カンタン一家は皆明るくて、気の良い人たちだ。私のような不器用で不愛想な人間もにこやかに受け入れてくれ、本当に感謝している。だけど時折、何気ない言動が「日本ならNGだよな」と無神経に感じられることがあって、靴に潜り込んだ小石みたいに違和感を引きずってしまう。

昔は愛想笑いを絶やさず、毎回集まる度にくたびれ切っていたけど、近頃ようやく力の抜き具合もわかり「疲れた」と堂々と昼寝したりしている。「あら大丈夫? おやすみ」と心配しつつも放置してくれ、それをなんとも思わないらしいとわかったから。

熱いけどベタついていない家族の関係には、素直に目を見張らされる。

 


パリの街角のリアル
▼右にスワイプしてください▼

NEXT:11月7日(日)更新予定(毎週水・日公開です)

夫の姉・マルゴのパートナーは女性で……

トーフに好きなだけケチャップとマスタードを_img5

<新刊紹介>
『燃える息』

パリュスあや子 ¥1705(税込)

彼は私を、彼女は僕を、止められないーー

傾き続ける世界で、必死に立っている。
なにかに依存するのは、生きている証だ。
――中江有里(女優・作家)

依存しているのか、依存させられているのか。
彼、彼女らは、明日の私たちかもしれない。
――三宅香帆(書評家)

現代人の約七割が、依存症!? 
盗り続けてしまう人、刺激臭が癖になる人、運動せずにはいられない人、鏡をよく見る人、緊張すると掻いてしまう人、スマホを手放せない人ーー抜けられない、やめられない。
人間の衝動を描いた新感覚の六篇。小説現代長編新人賞受賞後第一作!


撮影・文/パリュスあや子


第1回「「仲が良すぎる」夫の家族」>>