エッセイストの小川奈緒さんは20代の頃、ファッション編集者として雑誌社に勤めていました。フリーランスとして独立後は仕事のジャンルを徐々にライフスタイル系に移し、住まいも都心から郊外へ。仕事や環境が変わったことと、年を重ねたことで、服への意識が若い頃とは180度変化したと言います。
お金、暮らし、ファッションなどにまつわる「これまでの習慣や思い込みの見直し」がテーマの新刊エッセイ『ただいま見直し中』から、今回は小川さんの服選びの条件を公開します。
選びたい服の条件が変わってきた
クローゼットの整理をしたことで、ずいぶんと服の出し入れがしやすくなった。
ハンガーが、ポールを左右にすいすいと滑るクローゼットは、風通しがよくて、そこにかけられた服もどこかうれしそうに見える。
断捨離ともいえる大がかりな整理をくぐり抜けた服たちを眺めていると、もう一段階、削ぎ落としてもいいような気がしてくる。昔は、服をたくさん持っていることがおしゃれの証だと信じていた気もするけれど、 いつからか、その意識は180度変わった。わたしの変化なのか、時代の変化なのか、その両方かもしれないが、今は、少数精鋭で、持っている服はすべて1軍。いつも同じような服を着ているように見えても、それが似合っていればいいし、他人から見た印象がブレないほうがカッコイイ、と思う。
もうひとつ変わったのは、ひと目見て「あ、どこそこの服だな」とわかるような服は着たくない、ということだ。「あのブランドやショップが好きそう」「あの雑誌が好きそう」とか、「ナチュラル系」や「モード系」などとカテゴライズされやすいファッションにも、少し抵抗を感じてしまう。
これは、ファッション誌の仕事をしていたころと明らかに変わった部分、というか、意識としては真逆といえる。なぜなら当時は、身につけるアイテムは仕事相手とのコミュニケーションツールであり、自分というキャラクターを伝え、理解してもらいやすくするための大事な道具だったから。
たとえば、初めて会う相手と、偶然にも同じブランドのものを今シーズン買ったという共通点が見つかれば、短時間で打ち解けやすいし、お互いに好きなテイストの確認にもなる。ある意味、身に着けるものに自分がとても助けられていたし、その力を借りていたと思う。
それが、なぜか今は、服にそうした役割を求めていない。おしゃれの意欲はあっても、選びたい服の条件が変わってきたのだ。
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