自分が楽しくありたいから、周りを楽しくさせる


――テレビなどで拝見する八嶋さんの明るさというか軽やかさにはいつも救われるものがあります。八嶋さんは人と接するときにどんなことを心がけていますか。

“古いタイプの男”だった八嶋智人さんが、多様性という言葉で思い出す風景「まだ幼い息子と英語しか話せない友人が...」_img6

 


「自分の周りにいる人を楽しませることですね」

――めっちゃいい人……!

「いや、でもそれは他人のためにやっているんじゃなくて、自分のためにやっているんですよ」

――どういうことでしょうか。

「周りが楽しい方が、僕自身も楽しくなれる。だからやっているだけなんです。ありがたいことに、よく現場でムードメーカーとかサービス精神が旺盛とか言っていただくんですけど、それも全部、僕が楽しくなくなるからなんですよね。もし現場でしんどそうな人がいるとしたら、だったらその人たちが楽しくなることをするのを僕の最大の使命にしようと。そう考えているだけなんです」

 


――読者の中には、演劇にあまり縁のない人もいるかと思います。そんな方に向けて、ぜひお誘いの言葉をいただけますか。

「『ミネオラ・ツインズ』のような社会性や時代性がぎゅっと凝縮されたお芝居を、はいどうぞと舞台上から渡されたときに、『interesting』と思えるのが劇場の良さだと僕は思っています。なので、まずは劇場という空間に身を委ねて、一生懸命観てください。この作品が最終的に完成するのは、お客さん1人ひとりの頭の中。そしてそれは10人いれば10人それぞれちょっとずつ違ったものになると思うんです。それがまた面白いんですよね。

僕は劇場に入る前と出た後で、同じ風景を見ても何かが変わっているような、あの感覚が好きで。この作品も、観終わってスパイラルホールを出たときに、表参道の街を歩く人々が、さっきまでと違ったふうに見えたらいいな、と。

上演時間はそんなに長いお芝居ではありません。なので、まずは来ていただいて。観て嫌だなと思ったら二度と舞台を観に行かなくてもいいと思うんですよ。大事なのは、その出会いがあるかどうか。そうした未知との出会いが人生を豊かなものにするのではないかなと思っています」

“古いタイプの男”だった八嶋智人さんが、多様性という言葉で思い出す風景「まだ幼い息子と英語しか話せない友人が...」_img7

撮影協力/hotel koe tokyo

八嶋智人 Norito Yashima
1970年9月27日生まれ、奈良県出身。1990年に松村武らとともに劇団「カムカムミニキーナ」を旗揚げ。以降、劇団の看板役者として、舞台・ドラマ・バラエティー・CM・映画などで幅広く活動している。現在、出演ドラマ「ラジエーションハウスⅡ」(フジテレビ系・月曜21時〜)、「顔だけ先生」(東海テレビ/フジテレビ系・土曜23時40分〜)、「スナックキズツキ」(テレビ東京系・金曜24時12分〜、ゲスト出演)が放送中。2022年1月スタートのNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」への出演も決定している。

 

<公演情報>
『ミネオラ・ツインズ
〜六場、四つの夢、(最低)六つのウィッグからなるコメディ〜』


ピュリッツァー賞受賞作家、ポーラ・ヴォーゲルによるダーク・コメディが日本初上陸。舞台は1950〜80年代、激動のアメリカ。ジェンダー、セクシュアリティ、人種……あらゆる価値観が目まぐるしく変わる中で、真逆の道を歩んだ二人の見る夢とは。

作:ポーラ・ヴォーゲル
演出:藤田俊太郎
翻訳:徐賀世子
出演:大原櫻子、八嶋智人、小泉今日子ほか
【公演期間】2022年1月7日(金)〜1月31日(月)
【会場】スパイラルホール(東京・青山)

撮影/中垣美沙
取材・文/横川良明
構成/山崎 恵