これまで、『先生の白い嘘』『地獄のガールフレンド』『サターンリターン』など、身近な男女の心理描写を得意とし、本音を赤裸々に描き出してきた鳥飼茜さん。7月から「週刊モーニング」で連載が始まった『バッドベイビーは泣かない』は、約2年ぶりの新作になります。テーマは妊娠、中絶、出産で、7年ぶりに再会した大人4人を中心としたサスペンスラブコメディ。11月21日に待望の単行本1巻が発売されるのを前に、新作に関する話を伺いました。

2年ぶりの新作『バッドベイビーは泣かない』1巻が発売!鳥飼茜先生インタビュー_img0
 

鳥飼茜
1981年生まれ、大阪府出身。京都市立芸術大学在学中から漫画を描き始め、2004年に少女漫画誌でデビュー後、青年漫画誌に転向。作品に『おんなのいえ』『先生の白い嘘』『地獄のガールフレンド』『ロマンス暴風域』『サターンリターン』など。7月4日発売の「モーニング」31号から、新連載『バッドベイビーは泣かない』がスタート。

 

 


『バッドベイビーは泣かない』あらすじ 2023年10月某日。
間戸かすみはカフェのトイレで妊娠検査をしていた。
元カレと再会した勢いでの一夜の避妊ミス。
結果「陰性」に歓喜するのも束の間、上司からは仕事のお叱りメールが届く。
なんだか自分の人生、前途0点…?
そんなある日、
かつてとある事故の現場に居合わせた
間戸含む男女4人で、
7年ぶりに会わないかという誘いが舞い込む。
 


約2年ぶりの新作のテーマに妊娠、中絶、出産を挙げた鳥飼さん。出産など、鳥飼さん自身の個人的な経験が大きいと振り返ります。

「私も40歳を過ぎて、次世代の人たちの選択肢が減ってほしくないという気持ちを持つようになりました。自分の人生の選択肢を自分で選べるというのはとても大事なことです。また、最近ようやく個人の権利が尊重されるようになってきたものの、日本では他人や国が口を出してくるのが当たり前なところがまだまだあるな、と感じています」

今年7月、男女間に存在する性の不条理さや格差を浮かび上がらせた『先生の白い嘘』が映画化され、公開されました。この作品は、性と暴力の問題に切り込んでいたこともあり、怒りや恐怖がにじみ出るような場面も少なくありませんでした。

「『先生の白い嘘』を描いていた頃は“喧嘩上等!”みたいなところがあって、自分が正しいと思ったことを描けばいいという感じでした。でも、私も年齢を重ねてたぶん優しくなったと思うので、この作品は軽いノリで楽しんでもらえるように描いていて、単純に私も2年ぶりに漫画を描き始めて楽しいんです!」

主人公の間戸かすみの初登場シーンは、カフェのトイレの中。妊娠検査薬が陰性であることを確認してテンション高めにトイレから出てきた矢先、上司からの叱責メールで現実に引き戻されます。実は彼女、元カレと再会した時に勢いで関係を持ってしまったものの、避妊ミスがあったために生きた心地がせず、その間に仕事でミスを犯してしまっていたのです。

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間戸の明るいキャラクターもあって、漫画では思わず笑ってしまうのだけど、元カレからは「大丈夫そ?」というスタンプ1つが送られてきたのみ。間戸は緊急アフターピルを飲み、毎月来るはずのものが来ず、妊娠検査薬で陰性が判明するまでは心配で仕事どころではありませんでした。もしこれが自分の身に起きたことだとしたら、笑い飛ばせそうにありません。妊娠や中絶は男女の問題であるはずなのに、片方の当事者である男性が見えづらいことは往々にしてあるものです。

「自分が女ということからは逃れられないので、男女の不均衡なども避けて通れないところはあります。間戸ちゃんは、基本的にふわかる状態なのだけど、急に深刻に悩んだりとアップダウンの激しいキャラクター。周りを巻き込む、ちょっと面倒なタイプです。間戸ちゃんがみんなを巻き込んで、人の多面的なところを描いていくことで、いろんな人に読んでもらえたらいいな、と思っています」

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鳥飼さん自身は27歳で結婚して長男を出産し、2年後に離婚します。その後、再婚と2回目の離婚を経て、現在、その息子は、平日は父親、週末は鳥飼さんの元で暮らしています。

「この作品は妊娠、中絶、出産がテーマですが、妊娠して、幸せに出産して、そこから奮闘して……、という話ではありません。子どもを生んだとしても、お父さんとお母さんが協力して育てて、という、わかりやすい一つの物語にくくれることはなくて、人それぞれ。私も、妊娠や出産のタイミング、漫画家の仕事を食べていけるところまで持っていけたことなど、ラッキーなことが重なって今に至っていますが、結構ギリギリな時ありました。世の中には、たまたまタイミングや条件が合わなくて中絶を選ばざるを得なかった人もいますし、妊娠や出産が女性に幸せを与えない側面もあります。私は“そうじゃない”側面に面している人のことを忘れたくない、という思いがあって、この作品を描いているところはあります」