家族から譲り受けた、洋服や宝飾品。大切に保管してはいるものの、もはや保管しているだけ、になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。かくいう筆者も母から譲り受けたワンピースがあるのですが、未だに「これどうやって着るの?」状態で、思い出した時に観賞するのみ。いっそ着ないなら処分する? と自問自答したものの、新婚旅行など母の若かりし頃の写真にたくさん登場するそのワンピースは、きっと思い出の詰まったお気に入りの一着。とても勇気が出ません。
そんな長年にわたる悩みを解決してくれる救世主なんていない……。そう考えていましたが、なんと銀座にいらっしゃいました! 世界各国の一流メゾンから技術を高く評価されている“リフォーム”専門店「サルト銀座店」です。代表を務める檀正也さんの著書『捨てられない服がよみがえる! リフォームの魔法』には、仕立てはいいけれど形が古かったり、サイズが合わなかったりして“持て余している服”を、リフォームによって甦らせた事例が満載! 一筋の光明を見出せること請け合いの本書から、今回は特別にスカーフとワンピース、ふたつのリフォーム事例をご紹介します!
一枚の服には物語がある
リフォームの相談をお受けする際、私はよくお客様に、「(あなたにとって)これはどういったお洋服なのですか?」とお尋ねします。すると大概のお客様は、その服にまつわるエピソードを話してくださるのです。ある方は、情熱的に。ある方は記憶を辿るように、ぽつりぽつりと。
皆さんのお話を伺っていて思うのは、お一人お一人にそれぞれの人生があるように、一枚一枚の服にも物語がある、ということです。
服にまつわる物語を、想い出を、何かの“かたち”として残したい、身につけていたい。あるいは次の世代に伝えたい。少し大げさな言い方かもしれませんが、“手間とお金をかけてもリフォームしたい服”を持っている人は、幸せな人だと思います。かけがえのない想い出を、服の数だけ持っている人だからです。
ご相談を承る私たちも、「お客様の大切な想いを託されている」のだと、その責任を重く受け止めています。
リフォームして着るということ
私がリフォームという仕事に携わるようになったのは、20年以上も前のことです。当時は景気がよかったせいなのか、「着古して傷んだものを繕ってまで着るのは恥ずかしい」と考える方が少なくありませんでした。
着物やジュエリーであれば、「世代を超えて受け継がれるもの」という認識の方が多いのに、洋服は「消耗品」と捉えられがちなのは、残念なことです。
でも例えば、イタリアのクラシックなジャケットは、いわゆる本切羽(ほんせっぱ)の四つボタンのうち、袖口から三番目までのボタンは開閉でき、四番目のボタンホールは飾りになっているものが多いのです。これは、子供が成長して袖丈を出すことになった時、ボタン位置を袖口側へ動かせるように配慮した工夫。つまり、彼らは大切なジャケットを、最初から子供に譲る前提で仕立てているのです。
洋服をお直しして着続けるのは、恥ずかしいことではなく、むしろ「生活の知恵」。リメイクとなれば、その可能性は無限大です。
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