世界で初めてiPS細胞の作製に成功し、2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞した山中伸弥教授。再生医療の発展に大いなる貢献を果たし、世界的な栄誉を得たその姿を見て、我が子も同じ道を歩んでくれたらと羨望を抱いた親御さんも多かったでしょう。

なかには山中教授の幼少期や学生時代に興味を抱いている人も多いと思いますが、それを垣間見ることができ、さらに山中教授の子育て論を知ることもできるのが、大学の同級生である成田奈緒子医師との対談本『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』です。本書を読み進めるうちに見えてくるのは、塾に通いながら猛勉強し、東大や京大に合格して研究者に、という一般的なエリート研究者像からはかけ離れた姿。しかし、二人は対話を通して、山中教授を形作った条件をいくつか見出していきます。

子育てのヒントがたっぷり詰まった本書の中から、今回は「生活習慣」について語った部分をご紹介します!

「早寝早起き朝ごはん」で優れた脳に!ノーベル賞科学者・山中伸弥教授が語る子育てとは_img0
 


「母の味」が子育てにもたらす効果とは?


両親から比較的ほったらかされて育ったという山中さんと、教育ママだった母親にストレスを感じていたという成田さん。対照的な子ども時代を過ごした二人は、生活習慣と子育てとの関係を考察します。その入り口として自分の子ども時代を振り返った山中さんは、母親がしっかり栄養のある食事を作ってくれたことを思い出すのでした。

 

成田 食事は、重要なんだよ。きちんとお腹を空かせて食事を摂って満足することは、間脳や延髄の中枢をきちんと刺激するので、基本的な情動がコントロールされやすくなります。空腹だとついイライラしてしまう案件でも、満足な食事の後なら余裕の笑顔で対処できたりするでしょう。

山中 なるほど、そうなんや。僕ね、実は好き嫌いが多くて魚や野菜が苦手やったの。母が野菜を工夫して食べやすくしてくれました。

成田 小さいときに好き嫌いがあるのは当たり前だけれども、食欲が起きて食べる、食べて満足する、を繰り返すことで味覚の分化が起こり、さらに「知識」として「これは体にいい」とか「これはすごく長い時間煮込んで作る」なんていう情報が加味されることで少しずつ受容できる範囲が広がるよね。

山中 母は5年くらい前に他界しましたが、今でも「母の味」が懐かしいです。

成田 早寝早起きさせているし、食事も丁寧につくっていらっしゃる。こころも体も丈夫に育ったのは、お母さんのおかげだね。そう考えると、うちの母親も、悪いところばっかりでもないんだよ。

山中 というのは?

成田 一番は、「早寝早起き朝ごはん」。幼児期から夜は8時に寝かされて、朝は5時、6時起き。この習慣をきちんとつけてもらったからこそ、確実に脳が育ったと思う。だからこそ、小学校から大学まであれだけの心理的ストレスがありながら、こころが壊れなかったのだろうと思います。

山中 成田さんが小児科医になって、子どもの脳について研究したからこそ実感するところやね。

成田 そうね。そこはもう本当に感謝です。すごく生真面目な人だったから、大事な習慣をつけてもらえました。