山中伸弥教授といえば世界で初めてiPS細胞の作製に成功し、2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞したことで有名ですが、メディアが伝えるその半生を見ると、決して順風満帆な研究者人生を歩んできたわけではないことが分かります。
テレビなどで見せる笑顔の裏でどれだけの苦難を乗り越えてきたのか……長引くコロナ禍で心が折れやすい状況にある昨今は、その強靭な精神に憧れを抱く人も多いでしょう。また、子育て中の人であれば、我が子にはそんな風に育ってほしいと願っているのではないでしょうか。
そんな山中教授が大学の同級生である成田奈緒子医師と対談した『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』を読むと、山中教授の精神を育んだ幼少期や思春期の家庭環境を知ることができます。果たしてその強さの源とは?
今回は、山中教授と成田医師が近年よく耳にする「レジリエンス(乗り越える力)」について語った部分をご紹介します!
コロナ禍を生き抜く「しぶとい人間」を育てるには?
子育てについてさまざまな角度から検証していた山中さんと成田さんは、コロナ禍というタイムリーなテーマを取り上げます。二人は、先行き不透明なこの時代を生き抜くために必要な人間性について語り合うのでした。
成田 これから先、どんな逆境にも負けない人間に育てるっていうことが大事な時代だと感じます。
山中 そうですね。しぶとい人間に育てたいですね。
成田 山中君もいろいろと壁に突き当たってそれでもあきらめずにやってきたと思います。次の世代、若者や子どもたちを、しぶとい人間に育てるって考えたときに、どんなことが大事になりますか?
山中 「感謝できる人間」に育てることかなあ。「ありがとう」って素直に思えることが非常に大切で、それをきちんと誰に対しても伝えられたらええなと思う。さっき、成田さんが「実家に戻った学生さんが、その家庭の状況によって二つに分かれる」っていう話、しました。それ、たぶんご夫婦にも当てはまって、コロナでかえって仲が良くなるご夫婦と、関係が悪化してしまうご夫婦とあると思うんだよね。
成田 ありますね。
山中 家族とか、夫婦とかが二分化されてしまうひとつの鍵は「ありがとう」って言う回数やと思うんです。ずっと一緒にいるのに「ありがとう」を言えない人たちは、余計にギスギスしてしまう。「ありがとう」が増える家族や夫婦は、コロナ時代にあってその結びつきが強くなる。そんな関係性を結べる人は、プラスのエネルギーを持てるでしょ。
成田 なるほどね。学生たちも「ありがとう」を言われて、そこで自分の存在価値を確認している。自己承認を得ています。いろんなことが制約されて生きづらさが増す時代が続いたとしても、「ありがとう」が言えて、「ありがとう」を言われる関係性を築けたら前向きに生きていける。
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