「サブカル」と聞いて、どんな印象を持ちますか? サブカルはサブカルチャーの略称ですが、意味としてはメインカルチャーの反対で、大勢の人が好きという主流のものではなく、ごく一部の人に支持されているものを指します。70年代までは反体制的なカウンターカルチャーが主流でしたが、時代が進むにつれてサブカルチャーの意味合いはどんどん変わってきています。また、「サブカル系女子」といった名称も誕生しました。おしゃれで独特のセンスがあるというイメージがある一方、「変わり者」「とっつきにくそう」といった印象を持たれることもあるようです。Kissで連載中の『アレンとドラン』の主人公・林田(と書いてリンダと読む)も、マイナー映画大好きのサブカル女子大生。好きなことがはっきりしている一方で、いろんな生きづらさを抱えているようです。

大学進学を機に上京してきた林田(リンダ)。彼女を形作ったのは片田舎のショッピングモールにある、偏った品揃えの「遊べる本屋」。

“マニアックな私”の自意識をこじらせて...サブカル系女子は変われるか?『アレンとドラン』_img1

 

東京では、絶対に地方には回ってこないようなミニシアター系の映画館が、見たい時にすぐ見ることができて、映画についてツイートするのも楽しみの一つ。SNSでつながれば、ニッチな好みの同士もすぐに見つかる。リンダはそれなりに幸せな生活を送っていました。大学のクラスメイトには、「マイペースだよね」「サブカル系(笑)」と言われているようで、リンダはぼっち状態が基本。

 

ただ、マイナー映画好きでも、己が想像以上にマイノリティだったようで、SNS上でもなかなか分かり合える友を見つけるのが難しい様子。そんな中、「シンタロー」というアカウントの人とは会話が合い、流れで会うことになりました。待ち合わせ場所に現れたのは、いい年した中年男性。シンタローの持つ映画の知識は奥深く、確かに興味深いし、話も合う。でもなんかだんだん背中を触ってきたりして、さらには「飲みすぎだよー しょーがないなー」とリンダに言いつつ、帰り道で立ち寄ったコンビニで、どさくさにまぎれてコンドームを買っていて……、と下心バリバリ。しれっとリンダの部屋に入ろうとしたその時に現れたのが、隣の部屋に住むイケメン男性でした。

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シンタローが慌てて帰ったため、貞操の危機を脱することができたリンダ。イケメン男性とはゴミ出しの朝にすれ違う程度で言葉を交わしたことはありませんでした。彼は駅前のバーでのバイトから帰ってきたところでした。

まんまと中年男性にいいようにされかけていたリンダに対して、「ちょろ過ぎ」とばっさり。ついでに、アパートの壁が薄いために、リンダが夜な夜な見ている映画の音や、スマホに向かって「ツイッター投稿」と言いながら、ツイートをしている声やらが全部丸聞こえであることまで指摘されてしまいます。

イケメンの隣人に恥ずかしいところを聞かれたり、見られたりしていたリンダですが、引っ越さない限り、お隣さんから逃げ出すことはできません。また、シンタローとやり取りしていたSNSアカウントは削除して、新たにミニシアター系好きのアカウントを作ってみたのですが、速攻でシンタローに「いい趣味ですね!」とコメントを付けられてSNSでも逃げ場がない。でもそれは、自意識過剰でマイナーな映画が好きという鎧を着込んだ自分からも逃げられないことでもあるということに気づきます。

そんなリンダは、イケメン隣人がバイトする店に、シンタローを呼び出すことに決めました。先に店に着いたリンダは、彼に対して散々恥を晒したついでに、独白をします。小さい頃から好きなことに没頭しすぎてコミュ力がない。失敗するのがこわくてしょうがない。私から「好きなもの」を取ったら何もない。だからこそ、「私が好きなものが好きじゃないとダメなんです」と。

のこのこと店にやってきたシンタローは、薀蓄たっぷりでさらには下心ありのいけ好かない中年男でしたが、リンダにとっては自分が大好きなウディ・アレンやグザヴィエ・ドランの話ができる貴重な相手。そう思ってシンタローと再会して話をしてみたものの、みんなが知らないマニアックな知識があることでほんのりと優越感を抱き、そしてそれが鎧と武器になっていると思っていたけど、本当は、自意識をこじらせまくって自分のことを全然好きになれない一人のちっぽけな人間であることに気づいてしまいます。

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「自己評価が低くて 自意識が過剰で 同族がいいのに 同族嫌悪」

というリンダのつぶやきがぐっと胸に突き刺さる人、少なくないのでは?
こうして、カウンター越しのイケメン隣人・江戸川には何を晒してももう恥ずかしくない! ということで、リンダは江戸川に素の自分を出していくようになります。

江戸川(だけど、リンダは“エドガー”と脳内変換)は、リンダと同じ大学の先輩でした。サブカルとは無縁で、気遣い上手。だから、バイト先のバーでは女性客にモテまくりとリンダとは正反対。ただし、女子のタイプを見極めて分類するのが好きという変わったところを持ち合わせています。だから、エドガーは自分の身の回りにはいなかったリンダを見て、観察対象として興味を持ち始めるようになります。

好きなことに囲まれて楽しいはずなのに、どこか満たされないところがある。共通の話題がない人(リンダの場合はマニアックな映画)とのコミュニケーションのとり方がわからない。「○○が好き!」は自分の個性として彩りをくれたり、自分を守ってくれたりもするけど、それが自分を縛る仇になってしまったことがある。そんな自分が好きになれなくて嫌になる――。こういったことに一つでも身に覚えがある、という人はぜひ本作を読んでみて! 若かりし頃の自分を見るようで時々どうしようもなく恥ずかしい気持ちにもなりますが、リンダがエドガーとの交流をきっかけに自分の世界を少しずつ広げていくさまは、それこそ心情描写の巧みな映画のようでぐいぐい読ませます。あと、映画ネタがちょいちょい挟み込まれてくるのですが、結構マニアックなので、映画好きな人にはたまりません。

2016年からKissで連載が始まった本作ですが、12月13日に発売された6巻でついにリンダとエドガーの関係性に大きな動きが……。また、作者の麻生みこと先生は今年で画業30周年! というわけで、今こそ改めてじっくりと読みたい作品です。

 
 

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『アレンとドラン』
麻生みこと 講談社

林田(リンダ)は田舎から大学進学に伴い上京して1年。単館映画などのサブカル好きにとっては、それなりに幸せな日々を送る。 ところが、ある日、サブカル女子を食いモノにする物知り風おじさんに襲われそうに…。それを救ってくれたのは隣人・江戸川(エドガー)だった!


作者プロフィール

麻生みこと(あそうみこと)
9月23日生まれ。A型。熊本県出身。 1991年に「LaLa DX」(白泉社)でデビュー。 代表作に『海月と私』『路地恋花』(講談社)、『そこをなんとか』(白泉社)など。 現在Kissで『アレンとドラン』連載中。