アイドルや声優、俳優などを熱狂的に応援することを、“推し活”といいます。「人は恋をするのではなく、恋に落ちるもの」などといいますが、“推し”にハマるのも、突然、恋に落ちてしまうようなものではないでしょうか。推しがいることで元気がもらえるし、嫌な仕事もがんばれたりするものです。でも、ある日突然、その推しが活動を辞めてしまったら? コミックDAYSで連載中の『推しが辞めた』は、まさにそのような状況に陥ってしまった一人の女性の物語。惜し活女性の心理描写がリアルすぎる! とSNSで話題になっています。

『推しが辞めた』(1) (ヤンマガKCスペシャル)

『推しが辞めた』の主人公みやびの推しは、ボーカル&ダンスグループ「6hourS」のリーダー未来(ミク)。25歳一人暮らしで派遣社員の手取りは14万円ですが、副業で30万稼ぎ、月々の収入の大半を推しのために使っています。

 

「彼無しの人生は考えられないし 考えたくもない」「もし叶うならずっと彼だけ見て生きていたい」

 

そう思うみやびですが、ミクの推し活費用を捻出するために、デリヘルで働き、「すべてはミクくんのため」と自分に言い聞かせながら、気持ち悪いおっさんと肌を重ねていました。

 

ある日、みやびは「6hourS」のイベントに参加します。CD2枚買うと、ミクくんと10秒だけ握手できるのですが、ろくに会話すらできません。そこで、みやびは5万円出してCD50枚を買い、再びミクと握手することに。みやびはミクの古参ファンで、ミクもみやびのことを覚えてくれています。お金で買った僅かな時間ですが、みやびは、ミクが自分のことだけを見てくれる刹那に5万円をはたいたとしても、またデリヘルで働けばいい、と自分に言い聞かせます。

 

そんなみやびには、3人の推し活仲間がいます。それぞれの推し担は異なりますが、お互いの推しについて心おきなく話をすることができ、共感し合えるのは、この仲間だけ。

「推しがいない人生とか 考えたことないし 考えたくないもん」
「オタクでよかった」
「好きなものがあるって幸せだよ」

としみじみ推しがいるよろこびを分かち合う一方で、貯金や老後のことを考えると、気が滅入ります。推しに依存しているとも言えますが、それでも、推しがいる人生は幸せで、推しのために一生懸命生きていたのでした。そのために風俗で働いていたり、パパ活をしていたりしたとしても。

 

仲間との飲み会を終え、帰宅したみやびのスマートフォンに、「6hourS」の運営から通知が入ります。それは、みやびの推しであるミクの脱退を知らせるものでした。

 

「推しが辞めた」

その衝撃的な事実を受け止めきれず、放心状態になるみやび。ミクと出会ってから7年間、ミクのことだけを考え、ミクのために風俗で働き、生活の全てをミクに捧げてきたのですから、抜け殻状態になるのも無理はありません。ミクの脱退理由は発表されず、ネット上は憶測ばかりでわからずじまい。みやびはその真相を探っていくことになります。

作者のオガサワラ先生自身は根っからのオタク気質で、応援しているグループで脱退メンバーが出たという経験の持ち主。それだけに、推しの一挙手一投足に気持ちが盛り上がり、本人に会えた時の陶酔感や幸福感はとてもリアル。いろんな沼にハマっている仲間との会話や結束の固さも、「わかる~!」という人が多いのでは? 

いくら今が楽しくて幸せで、推しが人生に欠かせない存在であったとしても、みやびのように推し担がいつ目の前から姿を消してもおかしくはありません。推しとの別れを、どう折り合いをつけていくことになるのか。

また、推しへの過剰な情熱は、あまりにも辛すぎる現実からの逃げ場である場合もあります。本作でも、みやびの推し活仲間が辛い過去を抱えています。一方、たくさんのファンから羨望を集めるアイドル自身も一人の人間です。彼らの立場や気持ち、生き方なども作品を通して垣間見ることができます。

物語はみやびたち推す側も、推される側から消えてしまったミクも、どちらも「どうなっていくの?」とハラハラするような展開となりますが、推しが好きで好きで幸せだった時期は嘘偽りのないもので、いつかはいい思い出や、自分の糧として昇華されることを祈らずにはいられません(自分の推しへの思いもなかったことにしたくはないから……)。11月18日に1巻が発売されたばかりなので、推しがいる人も、そうでない人も(突然、沼落ちした時のために!)、この推し活群像劇を刮目せよ!
 

 
 

『推しが辞めた』第1〜2話をぜひチェック!
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『推しが辞めた』
オガサワラ 講談社

25歳、デリヘル嬢。推しは「ボーイズグループ」のミクくん。私にとって、ミクくんは世界のすべてだった。ファンを大事にしてくれる彼のためなら、いくらだって稼いじゃう。でも、人生を懸けて推してきたミクくんは、ある日突然脱退した。なぜ?どうして?その理由を追い始めた私は、ある「禁忌」を知ることになる――。風俗嬢が推しの辞めた真相を追う、衝撃のアイドルサスペンス!!


作者プロフィール
オガワサラ

福岡県出身。DAYS NEOへの投稿をきっかけに、2020年ヤングマガジン38号に読み切り『pm7:20』が掲載。その後、第83回ちばてつや賞ヤング部門にて、『わたしのかみさま』が優秀新人賞を受賞。2021年6月からコミックDAYSにて『推しが辞めた』の連載を開始。