今は長引くコロナ禍で、以前に比べて外国人を街で見かけることは少なくなりましたが、日本にはさまざまな国籍の人たちが暮らし、滞在しています。何かトラブルが起こった時に立ちはだかるのが言葉の壁。そんな時に活躍するのが「警察通訳人」です。女性マンガアプリPalcyで連載中の『東京サラダボウル―国際捜査事件簿―』は、数ある警察マンガの中でも、国際捜査と警察通訳人にスポットを当てたユニークな作品。彼らはどんな仕事を担っていて、どんな思いで仕事と向き合っているのでしょうか。

主人公のひとりである有木野の仕事は警察通訳人。外国人が関わる事件の捜査や取り調べに欠かせない存在です。警視庁に設置されている「通訳センター」には警察通訳人が約60人在籍していて、有木野もその一人。最も通訳件数の多い中国語(普通語)を担当しています。

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午前中の仕事が終わった有木野は、新宿のオープンテラスでランチを食べながら午後の通訳の下準備をすることに。そこで、鮮やかな緑色の髪をした女性が目に止まります。彼女が袋から取り出した弁当に入っていたのは、サソリの唐揚げ。楽しそうにサソリを食べる女性に唖然とする有木野。

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そんな彼らの耳に飛び込んできたのは中国語。若い中国人女性がスマホに向かって「キャンディ、今どこにいるの?」「心配なの」「早く連絡して」と叫んでいます。有木野は彼女の中国語が理解できますが、見て見ぬフリをしようとします。ところが、“ミドリ頭”の女性は英語で中国人女性に話しかけ、手を差し伸べようとします。どこかに電話をしようとしたものの、自分のスマホが見当たらなかった“ミドリ頭”は、「スマホ貸してもらえません?」と有木野に声をかけます。

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反射的にスマホを渡してしまった有木野ですが、その画面には、さきほどまで下準備のために見ていた中国語のメッセージが表示されたまま。有木野が中国語話者であることがバレてしまい、通訳として駆り出されることに。中国人女性に話を聞いたところ、彼女は日本に来日して間もないジェニーという留学生で、SNSで知り合い、来日中のキャンディという中国人女性が突然姿を消してしまったために、彼女を探しているとのこと。

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わかりやすくスピーディに、かつ的確に通訳する有木野の手腕に感動し、通訳してくれた礼を言う“ミドリ頭”。「お兄さんだったらウチの通訳人としてもバリバリやれるんじゃないかなーっ」と言いながら、名刺を差し出します。そこに記されていたのは、「警視庁」の文字。“ミドリ頭”は、見た目から全く想像できませんが、国際捜査係の刑事だったのです。

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こうして知り合った警察通訳人の有木野と、“ミドリ頭”こと、国際捜査係の刑事・鴻田麻里(こうだ・まり)。国際捜査といえば、密輸や窃盗団など大規模な事件がメインなのですが、鴻田が首を突っ込むのは訪日・在日外国人がらみのトラブル。どんなに些細な出来事でも、異国の地で困っている外国人に手を差し伸べずにはいられず、誠意を持って向き合う刑事でした。

 

一方の有木野には、実は元警察官という過去があります。また、15歳まで大連で暮らしていた帰国子女で、日英中の3カ国語が話せます。なぜ警察官を辞めて警察通訳人の道を選んだのかは、まだ物語では明らかになっていませんが、有木野は、かつては警察官として、現在は通訳人として、さまざまなトラブルに巻き込まれた外国人や、犯罪を犯す外国人を間近に見てきたはず。親身になったところで裏切られることもあったようで、「関わっても どうせ ろくなことにはならない」と一線を引いています。また、警察通訳人は警察職員なのですが、あくまで捜査する側とされる側の橋渡し役で、捜査権はありません。そういう立場ゆえ、自分の感情を表に出さず、黒子に徹しています。

ところが、困った人を放置できず、持ち前の明るさと人懐っこさでぐいぐいと首を突っ込んでいく鴻田に、通訳人としての力量を見込まれたが最後、有木野もさまざまな捜査に巻き込まれていくことになります。現場重視で行動的な鴻田と、論理的な有木野は案外いいバディのようで、さまざまな事件の真相に迫っていくようになります。まずは、突然失踪してしまったキャンディの行方を探すことに。

このマンガで初めて知ったのが、警察通訳人という人々の仕事。とりあえず訳せればいいのではなく、「えーと」といったつなぎ言葉も含めて正確に訳す「逐次通訳」が求められるそうです。捜査の現場では、言葉の微妙なニュアンスの違いが、取り返しのつかないことになるかもしれないからです。国際捜査も警察通訳人も、今までの警察マンガにはない切り口。かなり興味を引きつけられます。

鴻田は、好きな食べ物は「食べたことないもの」というだけあって、物語にはサソリの唐揚げに始まり、各国のさまざまな料理が登場します。こうした海外グルメも楽しみのひとつ。ちなみに第一話で鴻田がカエルの唐揚げや豚の脳みそ炒めを食べる店はモデルのお店があるそうです!

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そして、この物語を紹介する上で、ぜひ触れておきたいのが、「マイノリティー」というキーワード。東京都の外国人居住者の割合は3.98%で、パーセンテージで見るとわずかにしか見えませんが、人数に換算すると約55万人。決して少しとは言えません。鴻田と同じ警視庁における女性警察官の割合は10.2%、物語ではまだ明らかになっていませんが、有木野はLGBTであるらしいことが冒頭でちらりとほのめかされていて、日本におけるLGBTの割合は推定8.9%(電通ダイバーシティ・ラボ2018年調べ)と言われています。

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たとえマイノリティーであったとしても確実にここにいて、今を生きる人間の一人であることには変わりはありません。本作では、なかなかうかがい知ることができないマイノリティの置かれた立場や思いが丁寧にすくい取られていて、読み応えがあります。“サラダボウル”は、さまざまな野菜や具材がたっぷり入った方が美味しいに決まってる! というわけで、『東京サラダボウル』も今すぐ食べたくなる、魅力的な作品です。1月21日には、待望の2巻が発売されるので、ぜひ一気読みしてみて!

 

『東京サラダボウル ―国際捜査事件簿―』第1話をぜひチェック!
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作者プロフィール
黒丸(くろまる)

既刊に『クロサギ』シリーズ(原案・夏原武)、『UNDERGROUN'DOGS』全3巻(以上小学館)、『絶滅酒場』全5巻、『くだけるプリン』全1巻(以上白泉社) 等

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『東京サラダボウル ―国際捜査事件簿―』
黒丸 講談社

東京都の外国人居住者の割合、3.98%。パーセンテージではたったそれだけ。でもそれだけの人が確かにここにいるーー。さまざまな事情で日本にやってきて、犯罪に巻き込まれた、または犯罪を起こしてしまった外国人による事件と向き合う、警視庁 国際捜査係の鴻田麻里と警察通訳人の有木野了。言葉がわからない国でいきなり逮捕されたらどうしたらいい…!? 自宅で子供が誘拐された…!? 日本でこんな事件が起きているなんて知らなかったーー2人の捜査の中で明らかになる、知られざる日本での国際犯罪の姿と、浮き彫りになる犯罪関係者たちの過酷な現実ーー。破天荒な女性警察官とゲイの警察通訳人の最強バディによる、これまでにない新たな警察漫画!!