ようこそ思春期へ。全員中2だから、みんな正常だ!
「みんなが知りたいと選んでくれた『心の変化』と『人との付きあい方』についてお話ししますね」と渡會先生から、改めてみんなに思春期の心の反応が出ているか質問がありました。
・人にどう思われているかとても気になる
・親と話がしたくない
・人には言えない悩みがある
・急にいらいらする
・意地悪したくなる
・友だちに腹が立つ
うなずき、首をふり、話し合い、指さしあう。反応はいろいろでしたが、生徒たちの手がどんどんあがります。その度に、渡會先生は、「思春期が始まったね。心が大人に近づいてきた証拠だよ」。「友だちに意地悪したくなるのはよいことではないけど、思春期だもの。そんな気持ちになるよね。順調に成長しているみんなを今日は褒めてあげるね」。「ようこそ思春期へ!」などの言葉で肯定してきます。思春期のまっただ中で戸惑っている中学生たちに、「今、思春期が訪れているのは当たり前で悪いことではないよ〜、大丈夫だよ~」という渡會先生のエールが私にまでも伝わってきました。
「中二病って知ってる?」と渡會先生が聞くと、「おまえだ~」「おまえじゃん」と指さす子や、中二病を扱った漫画の真似をする子どもたちもいます。
「中二病という病気は医学的にはありません。ネット上のスラングで、いわゆる思春期まっただ中にある中学二年生の心の状態が、大人になっても抜けない人を揶揄したもの。指をさしあったりしている人もいましたが、大人から見るとみなさん、中二病の時期です。思春期は欲求が発達したり、脳が発達して知識も増えたり、月経・射精を経験する時期には性ホルモンの分泌も盛んになり、自分らしい自分を作っていく自我の形成を果たしていきます。大人の心と子どもの心が喧嘩している時期でいろんな葛藤を感じ苦しい時期です。でも、思春期はあと数年で終わりが来ます。ずっといまのままではありません。自分の人生のために好きな自分、理想の自分をつくっていっていいのですよ」(渡會先生)
思春期にも更年期と同じで期限がある! 大人になった私はそれなりの経験を積み、知識がありますが、かつては性ホルモンの乱れが、心にまで影響を及ぼすなんて知る由もありませんでした。当時この授業を受けていれば、自分だけがおかしいと感じていた悩みは、少しは軽減されたかもしれません。
更年期世代なら「あるある〜」「わかるっ」、と自分の弱みを仲間と共有できますが、思春期の頃は友達にも、ましてや親なんかには話せませんでした。まさに、思春期だったのですね。
思春期の悩みは様々なかたちで現れる。合言葉は「ハイハイ、思春期ね」
思春期は体が大人に成長する第二次性徴。心や考え方にも大きな変化が出きます。
「思春期は、こころのバランスが悪くなることが、よく起こります。シーソーのようにストレス等の刺激で両極端にコロコロ変わります。思い当たることはありませんか?
午前中は受容していたのに、午後には拒否。さっきまで信頼してたのに、今は疑ってしまう。昨日まで『あの先輩、好き好き大好き』と思っていたのに今日になったら嫌いになってしまった……そんな思春期に、キスや性行為を経験すると、急に気持ちが変わってしまった時には、お互いにとても傷ついてしまいます。人を好きになるのはとても素晴らしいこと。しかし、性行為は、妊娠や性感染症のリスクだけでなく、心への負担も大きくなります。思春期を乗り越えてから経験してほしいと思います。
他にも、注目していたのに無視という両極端もありますね。『あの子のことを無視しよう』そんな言葉を聞くと嫌な気分になる人?」(渡會先生)
ほぼ全員が真剣な顔で手をあげます。
そういえば私の中学時代にも、突然『あの子を、明日から無視しようよ』はありました。定期的に無視するターゲットは入れ替わり、私も無視された経験があります。人は人だからと拒否することもできず、流れに合わせて意地悪に加担していました。嫌な気持ちにしかならない記憶です……。
「みなさん嫌だと思いますよね。今日、思春期について学んだことをきっかけに、もしも、クラスであの子を無視しようと言う人がいたら、こんな合言葉を言ってみませんか? 『はいはい、思春期ね~』」(渡會先生)
生徒たちは苦笑したり、顔を見合わたりして、すぐに合言葉を言い始めます。
「『はいはい、思春期ね~』と言われると、ちょっと恥ずかしいですね。思春期は、不快なことを人に言って、自分が上に立ったように勘違いする人もいます。もしかしたら、その人も家で嫌なことや辛いことがあった人かもしれません。言われた方も、とても傷つきやすい思春期のタイプの人かもしれません。
クラスで『思春期なんだね~』と明るい合言葉で乗り越えてみることも大切ですが、すでに辛い、思春期の心の症状が強い場合は、一人で抱え込まず、保健室やスクールカウンセラー、先生に相談するようにしましょう」(渡會先生)
最後には、不安や悩みを解消するためのアドバイスがあり、あっという間に授業は終了。コロナ禍で通常より短縮されていましたが、密度の濃い内容でした。
生徒たちは「今の自分の悩みは当たり前」、「いつまでも続かない」と知って安心したに違いありません。スッキリした表情で、「ハイハイ、思春期ね〜」と言い合いながら、教室を出ていきました。
授業を受けた中学生の感想をご紹介します。
・自分だけが異常なんだと悩んでいたけど、みんなが思春期ってわかってよかった。
・こんな状態がずっと続くなら死にたいと思ってたけど、死ななくてもいいとわかった。
・思春期が終わる日が来るとわかったので、その日を楽しみに生きていきたい。
・自分も相手の将来も大切。好きな相手を大切にするためにも性行為は急ぎたくないと思った。
性ホルモンの分泌が盛んになり体も心も不安定な中で、自我を形成していく思春期。だから不安や悩みが発生します。そういう時期を乗り越えるからこそ、自分の考えをもつことができるように成長できるのです。大人はどう見守っていけばいいのかは、実践編に続きます。
スライド出典元
日本族計画協会発行 「人生を豊かに育む教育」(小学生向け)
日本家族計画協会発行 「人生を豊かに育む教育」(中学生向け)
監修/渡會睦子
取材・文/熊本美加
前回記事「「初潮と精通、小学生にどう教えるべき?」保健のベテラン先生に聞いてみた」>>
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渡會 睦子(わたらい むつこ)
東京医療保健大学医療保健学部看護学科教授
地域看護学・感染看護学 博士(健康科学) / 修士(看護学)/保健師 / 看護師 / 衛生管理者/公衆衛生学会認定専門家(日本公衆衛生学会) / 日本性感染症学会認定士(日本性感染症学会) /思春期学研究認定者・性教育認定講師(日本思春期学会)/Therapist (日本性科学学会) / 性の健康カウンセラー (性の健康医学財団)
【履歴】山形県を中心に保健師として性教育に取り組み、教育委員会と学校の先生方が性教育を円滑に行うことができるよう教材や仕組みをつくり、「20歳未満女性の人工妊娠中絶率」が、平成10年山形県は全国ワースト3位であったが平成22年には全国45位まで低下させることに成功。現在は、住民とともに活動する保健師の会を結成し、性教育を幅広く行っている。
著書『【パワーポイントスライド教材】人生を豊かに育む教育(小学生向け)』
(東京:日本家族計画協会)