人材大手のパソナグループが、本社機能の一部を兵庫県淡路島に移転させる──。2024年5月までに、東京勤務の約1800人のうち3分の2を異動させるというその報道を、メディアで目にした人も多いのではないでしょうか。ですがそれよりもっと前に、自分の意思で淡路島への移住を決めた1人のパソナ社員がいました。2人の子を持つ奥田悠美さんは、2018年夏、旦那さんを東京に残して親子で移住。現在は、仲間たちと一緒に3ヘクタールの田畑を耕しながら、学生や社会人向けのSDGs研修などを行なっています。

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淡路島の食料自給率はなんと100%超え。魚介類はもちろん、淡路島玉葱やレタス、白菜、ピーマンなど、多種多様な野菜が作られています。
 

育児と仕事の両立で文句ばかり言っていた日々


「私は田舎者なのでキャリアウーマンに憧れがあって。結婚して子供ができて、東京に家を買って理想の暮らしをしているつもりでしたが、毎日すごく文句を言っていたんですよね。忙しくて。今考えると忙しいと思っていただけですが、仕事帰りにお惣菜を買って子供たちに食べさせて、じゃあ空いた時間に何をしていたかと言われると何もしていない。ただただ、自分ばかりが育児と家事に追われているような気持ちになって、仕事も頑張っているのに時短だから給料は下がるし……と文句ばかり言っていたんです。そんな頃、会社の仲間の1人が話す考えに影響を受けるようになって」

これから訪れるであろう社会の変化に対して危機感を感じていたある男性社員が、AIやロボットによって働く必要がなくなってしまう人々の増加、国内の食料自給率の低さ、石油に依存する農業の危うさなどを例に挙げ、「あらゆることに対して危機感を持って変えていかなければいけない」と訴えていました。奥田さんはその考えに共感し、同じような志を持った同僚たちと日々意見を交わすようになります。

「同僚が問いとして与えてくれた社会の課題に対して、これはこうやっていく必要があるよねっていろいろと考えるようになって。考えている間は文句が一切出てこなくてすごく楽しかったんですよね。そのうちその同僚が、起業したいから出資して欲しいと会社の代表に直談判して、タネノチカラという新会社を立ち上げることになりました」

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2018年、当時4歳と2歳だった2人の息子さんを連れて淡路島に移住した奥田さん。

タネノチカラは「“農”を通じた持続可能な社会の実現を目指す」を目的に、パソナグループの拠点の1つである淡路島に社内ベンチャーとして設立。これまで農業など一切やったことがない奥田さん含む4人のメンバーが、荒れ果てた耕作放棄地を整備し、パーマカルチャーの視点から持続可能なコミュニティの再生に挑戦することになりました。

「この事業をやりたいと思ってから、当時4歳だった長男を田植えの体験に連れて行ったんです。そうしたら土が汚いから嫌だって全然田んぼに入ってくれなくて。これまでの生活を振り返ってみたら、土も虫も汚いから触るのをやめなさいって私自身が言っていたんですよね。そう教えていたことに愕然として、それが移住を決めたもう1つの大きな理由です」

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淡路島には自然を楽しむ施設も多い。写真はグランピングスタイルの宿泊施設、GREEN'S FARMSの「FARM STAY」。


マンションも売却し、いざ淡路島へ


もともと社会に対する視点などまったく持っていなかったという奥田さん。「衝動的に淡路島に行かなきゃと思った気がする」と話す彼女は、なんと勢いで所有していたマンションまで売ってしまいます。

「最初は会社が借り上げたマンションに住むことが決まっていたこともあって、実は淡路には一度も行ったことがない状態で移住を決めたんです。主人は当時転職したばかりだったので、さすがに今すぐ拠点を移すのは難しいということで、親子3人で行くことにしました。さらに私は主人に“家を売りたいんだけど売っていい?”って詰めて(笑)。彼には移住を止めたい気持ちもあったとは思うんですけど、止めることもせず、何も言われないうちにこっちに来ました。今さらですが、勝手だったなぁと思います(笑)」

会社の人事部にでさえ、「まだ淡路島の事業がどうなるかわからないから……」と自宅の売却を止められたそうですが、自分の家を売って何が悪い!と突き進んだ奥田さん。大学の友人やママ友などのコミュニティも東京にあり、「移住できない理由を探し始めたらキリがなくて、そこを1つでも見ていたら来ていなかったと思う」と話します。「野菜を育てたいと思ったことなんてこれまで一度もなかったけど、迷いはなかった」という奥田さんの淡路島生活は、そうして始まりました。

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島では移住お試し住宅の提供や住宅支援、空き家活用支援事業を行うほか、あわじ暮らし総合相談窓口も設けています。
 
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