前回の記事で紹介したように、自らの意思で兵庫県淡路島に移住し、営業職から野菜作りという、それまでとは180度違う仕事を始めたパソナの社員、奥田悠美さん。2018年の移住から3年半が経った今、どのような暮らしをしているのでしょうか。

土日も作業をする奥田さんと一緒に子供たちもお手伝い。


年月を経て変わり続ける移住生活


「移住当初は、“近くにコンビニってないの? 大きいスーパーはこれだけ?”なんて今考えるとあり得ないことばかり言っていましたが、それは直売所や地域の人だけが通う店など、島の暮らしの中にあるもっと素敵なものに目が入らなかっただけなんですよね。都市部の暮らしの感覚が非常に色濃く残っていたので、月に一度ぐらいは買い物に出かけたいとか、そういうことを思っていましたが、今は自給率の高い生活を送る中で、ただ消費をすることに抵抗が生まれるようになりました。ですがまさか自分が、土から大根を育てて切り干し大根を作るようになるなんて……。

人はそれぞれ大切にしていることが違うので、何が良い悪いではなく、長い人生においてそうやって緩やかに意識が変化していく過程ってすごく素敵なことだなと。自ら少しずつ行動を起こしていくことで、新たな広がりやつながりが見えてくる。この3年半で、“自分の人生を人に預けない”ということの大切さを強く感じるようになりました」

四方を海に囲まれ、美しいビーチが点在する淡路島。島外からも多くの海水浴客が訪れます。

移住当初はその土地のことを知ろうとして、“目に見えてわかる人が集う場所=観光名所”を巡っていた奥田さんですが、次第に自分がやりたいことに関係した場所に行くようになり、「ようやく淡路島に暮らしている感覚になれた」と言います。転職したばかりで東京に残してきた旦那さんも2019年末に合流し、今は家族4人、自分たちでリノベーションしたお家に住んでいます。

 

「こちらに来てから、まだ使えるものを壊して新しいものを作るということに意味を見出せなくなって、今は長く使い続けるということがすごく気持ちがいいんですよね。私が買った家はかなり前から空き家になっていましたが、定期的に空気の入れ替えにいらっしゃっていたんですね。でもコロナで行き来しづらくなって、家の面倒も見られなくなってきたから売ろうということになったようで。ただ、島内には空き家は結構あるものの、市場に出ることはあまりないようです」
※総務省が実施した住宅・土地統計調査によると、平成30年時点での淡路地域の空き家率は23.2%

瀬戸内海に浮かぶ淡路島は、神戸へ約30分、大阪へは約1時間と阪神間へのアクセスが良く、都市通勤する移住者も多くいます。写真は奥田さんが「とにかく景色が最高!」と言う日帰り湯、松帆の郷から見た明石海峡大橋。

移住者の増加によって、島の雰囲気にも少しずつ変化が訪れています。

「まず車の量が目に見えて増えました。パソナの社員が移住したことで観光客も増えましたし、飲食店や宿泊施設なども増え続けています。だから車も混んでいるし、建設中のものも多いので、良くも悪くもこれからどんどん変わっていくのではないでしょうか」

故郷である淡路島に移住し、農的生活の傍ら独学で器を作る店主が営むAwabi ware。奥田さんお気に入りのアトリエ兼店。
 
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