政府の新型コロナウイルス対策分科会の尾身茂会長が、オミクロン株への対応について「人流抑制より人数制限」と発言したことが波紋を呼んでいます。一部の専門家からは「積極的に外出してもよいと勘違いする人が増える」といった指摘が出ているほか、東京都の小池百合子知事も「国と尾身氏で整合性を取ってほしい」と述べています。
尾身氏の発言については、外出自粛を国民に求める方策がそろそろ限界に来ており、経済活動を優先すべきという声に配慮した結果との見方がもっぱらですが、尾身氏の発言を前向きに受け取る向きがある一方、専門家は専門家としての見解を優先して欲しいとの意見も聞かれます。専門家というのは、どう発言するのが正しいのでしょうか。
尾身氏は以前から感染症の専門家として、「(コロナの感染拡大を防止するには)人流を抑制するのがもっとも効果的」と発言してきました。外出自粛を促し、人が外出しなければ感染症は拡大しないというのは科学的事実であり、感染症の専門家の間では外出抑制が感染拡大防止の切り札であるとの合意が得られているようです。実際、外出抑制策は、これまでの政府におけるコロナ対策の基本だったといってよいでしょう。
一方、外出を抑制すれば経済に打撃を与えるのも事実ですから、経済学の立場からすれば、外出抑制策は確実に経済を疲弊させます。政府はこの2つの相反する命題の間で、常に揺れ動いてきました。
ところが尾身氏は2021年1月19日、記者団に対して「人流抑制から人数制限にシフトすべき」であるとし、従来の見解とは異なる発言を行いました。聞き方によっては、外出抑制をしなくてもよいという趣旨になりますから、関係者や専門家の多くが、尾身氏の真意がどこにあるのか図りかねたようです。
複数の専門家は、これ以上、外出抑制を続けると経済へのダメージが大きくなりすぎるという意見(あるいは、人流抑制を求めても、もはや国民が言うことを聞かなくなるという意見)に配慮し、見解を変えたのではないかと指摘しています(最終的に尾身氏がどのようなつもりでこの発言を行ったのかは分かりませんから、経済優先の意見に配慮したと仮定して議論を進めます)。
コロナ対策を優先すべきなのか、経済を優先すべきなのかというのは難しい問題であり、簡単に答えが出るものではありません。日本は民主国家ですから、最終的には国民、あるいは国民から負託を受けた内閣が決定すべき事項といえるでしょう。
最終的な決定権が国民(あるいは国民から負託を受けた内閣)にあるのだとすると、そして、尾身氏が複数の意見を足して2で割る形で見解を示したのだとすると、あまり評価できることではありません。なぜなら、民主国家において専門家に求められている役割は、あくまでも専門家としての科学的見解を示すことだからです。
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