転んだときだけ柔らかくなる床、食べられるロボット、ひび割れを自分で治すコンクリート――。これらは「ドラえもん」のひみつ道具でもなんでもなく、現在開発が進められている最新技術の一部。日経BPの編書『日経テクノロジー展望2022 世界を変える100の技術』では、冒頭で挙げたようなあっと驚くようなテクノロジーを一挙紹介しています。日経の専門誌編集長とラボ所長50人が選び抜いた、2022年から2030年にかけて有望な技術の中から、今回は特別に“健康・生活”分野の最新テックについて覗いてみましょう!


「住宅」そのものが健康をモニタリング


まず紹介したいのは、離れて暮らす高齢の両親がいる人に「そうそう、こんなのが欲しかった!」と思わせる健康モニタリング技術。スマートウォッチを筆頭とした健康管理機能付きのウェアラブルデバイスは現時点でもたくさん発売されていますが、本書が紹介するのは「専用デバイスを着用しなくてもセンシングができる技術」です。

 

開発を進めているのは、なんと住宅メーカーの「積水ハウス」。“住居そのもの”を使って居住者の健康に関するデータを収集できないか? という研究・開発が行われているのです。

「積水ハウスは居室内の非接触センサーを使って脳卒中などの急性疾患の発症を検知し、救急出動要請や搬送につなげる在宅時急性疾患早期対応ネットワーク『HED-Net(エイチイーディーネット)』の生活者参加型パイロットプロジェクトを2020年12月から始めている。

パイロットでは住宅内にいる居住者のバイタルデータを非接触で検知し、心拍・呼吸数を解析する。非接触センサーについてはコニカミノルタとNECと組み、ドップラー型センサーを使う。非接触にこだわったのは健常者がセンサーをわざわざ身に着けて寝ることはしないと見ているからだ」

2020年1月、米国の見本市で「HED-Net」を発表 (『日経テクノロジー展望2022 世界を変える100の技術』P107より)

年間約7万人が「家の中」で亡くなっている


住居のセンサーが異常を検知すると、どんなことをしてくれるのでしょうか? ITを活用した高齢者「見守りサービス」等では、事前に連絡先を登録した家族にメッセージを通知してくれるものも少なくありません。ですが、積水ハウスが開発を進める「HED-Net」は、よりスピーディーな人命救助を実現すべく、一歩も二歩も進んだ医療連携を想定しているようです。

「HED-Netの構想では、急性疾患発症の可能性がある異常を検知した場合、緊急通報センターに通知し、オペレーターの呼びかけで安否確認をして必要があれば救急車の出動を要請する。救急隊の到着を確認すると、オペレーターは遠隔から玄関ドアを解錠し、搬送後は施錠する。(中略)
さらに経時変化からリスクを把握して疾患を早期発見するモニタリング、個人のバイタルデータと住環境データを医学の観点から分析して実現するパーソナライズされた予防サービス、といったことの研究開発を進めていく」

積水ハウスの調査によると、家の中では年間約7万人が亡くなっており、死因で多かったのは脳卒中と心筋梗塞だったといいます。何気ない暮らしの中で「住まい」がいち早く居住者の異常を検知してくれれば、早期発見・早期治療につながることに。高齢者に限らず、一人暮らしの人、健康に不安を抱える人にとって、非常に心強い最新技術と言えそうです。