セルフ・キャリアドックとは?


「セルフ・キャリアドック」をご存じでしょうか?

セルフ・キャリアドックとは、企業内で社員が定期的にキャリアコンサルティングや多様なキャリア研修を受けられるよう、キャリア形成を促進・支援することを目的とした総合的な取り組みのことです。

ビジネス環境が激動する今の時代、定期的なキャリアの見直しは必要不可欠です。人間ドックを受けるように、社員のキャリアも年齢や役職などの節目で点検する。そのような役割を果たすのが、セルフ・キャリアドックなのです。

この仕組みは、2015年の『日本再興戦略』で国として初めて提唱された後、厚生労働省が普及に力をいれているものの、まだ企業の人事担当者にはあまり認知されておらず、「社員の自律的なキャリア形成なんてうちの会社じゃ無理」と考える方も多いようです。

そこで今回、「きわめて日本的な普通の企業」がセルフ・キャリアドック導入に踏み切ろうとするまでを取材しました。人事制度や組織のあり方に数々の課題を抱える日本企業において、社員のキャリア形成に役立つ仕組みづくりは可能なのでしょうか?

 

社員のキャリア形成が大切だと分かってはいるけど…


今回の取材にご協力いただいたのは、とある1000名規模の企業で人事を担当する湯浅さん(仮名)。旧態依然とする社内にはさまざまな課題があり、最近は特に「人事部という立場でどこまで従業員のキャリア形成に寄り添えるか」について頭を悩ませていると言います。

湯浅さんにお話を伺う中で出てきたのは、多くの企業に共通するであろう人材育成や組織のあり方に関する課題でした。

「社員のキャリア形成が大切だということは、一人の人事担当として分かってはいるんです。でも、会社の大きさに対して、人事部員は10名もいません。労務と採用・育成の仕事をこなすのに精一杯で、なかなか社員のキャリア形成支援までは手が回らないんです」

キャリア形成支援の仕組みづくりを検討しても、キャリアに関するプロがいないために、人事部内での議論は堂々巡りになるのだそう。

「社員の育成と研修、キャリア形成支援をどのように設計したら、良いサイクルを生み出せるのかが分からなくて、いつも議論がストップしてしまいます。外部にコンサルティングをお願いしようにも、そもそも人事領域に外部企業を入れることや『自律的なキャリア』という言葉に対して謎のアレルギーが社内にあるせいで、依頼できません。じゃあせめて、私たちにできることをしようと思って、各社員とキャリア形成について考える面談を行うのですが、人事異動のためのヒアリングだと思われてしまうんですよね……」

社会が急速に変化し、将来がほとんど予測できない現代。企業が事業を続けるためには、人材を活用し、生産性を向上させる取り組みが不可欠です。

また、社員にとっても、企業が提示するキャリアが最適とは限らなくなりました。一生の間に働く期間が長くなったからこそ、健康的に仕事を続けるには、やりたいことや働き方を改めて見直す機会を持つことが必要です。

多くの人事担当者がそのような時代の変化を敏感に察知し、社員のキャリア形成支援に取り組まなければいけないと考えています。しかし、湯浅さんが語るように、日常業務に追われてキャリア形成の仕組みづくりまでは行えていない現状があるのです。