どんなご遺族にも、その方だけのお別れの物語があります。
そして、亡くなった方との結びつきは生きている時とは違う結びつきです。
私のように、大切な人の死を受け入れられず、自分の心に蓋をして閉じ込めてしまったままでは結び直しは難しい作業になります。

ご遺族のお手伝いをして行く中で、私は自身の悲しみにも触れ、父の存在がとても大きかったことを知り、以前とは違った形で、父を私の中に感じることができるようになりました。


満開の桜と、ひとつの家族の物語

 

桜の季節になると、一枚の写真のように思い出す光景があります。

庭に咲いた桜の花。隣接する公園の桜も満開です。庭の桜の木の下には亡くなったお父さんが寝ている真っ白い棺が置いてあり、その周りで遺族が思い思いに話をしながら笑っています。

 

――それは、80代の男性の納棺式。
いつものように葬儀会社の担当者さんの後について、ご自宅の玄関に入ります。歴史を感じる一軒家は、廊下や柱が赤茶色に色を変え艶々していて、きっと大切に住まわれてきたんだろうと感じました。

廊下のつきあたり、縁側がある畳の部屋に亡くなったお父さんが寝ていらっしゃいます。襖を開けて一番先に私の目に飛び込んできたのは、桜の木でした。

木枠の古い引き戸が大きく開いていて、庭の桜の木が綺麗に花を咲かせています。しかもその後ろに地続きの公園の桜も見え、綺麗に整えられた庭の芝生とその奥に広がるピンク色に圧倒されてしまいました。ご挨拶も忘れて、お父さんの横に正座をしている奥様に、
「みごとな景色ですね」
と声をかけると、
「主人の趣味だった庭いじりのおかげで、みなさんにそう言ってもらえるんですよ」
と穏やかに微笑んでいらっしゃいます。桜の名所となっている公園は、花見シーズンということもあり、子供を呼ぶお母さんたちの声がすぐそばから聞こえてきます。