学生時代に誰もがお世話になっていた「学習参考書」。「これがなかったら受験に合格できなかった」という思い出の一冊がある人もいれば、「買っただけでやった気になって、全然活用してなかった」という人もいるのでは? そんな悲喜こもごもな「学習参考書」を題材にしたお仕事コメディマンガ『ガクサン』が「週刊モーニング」で連載中です。実在の学習参考書がバンバン出てくることもあって、大人になってからも「ああ、あの参考書にはこういう意図があったのか」という発見の多い、読み応えのある作品として注目を集めています。

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『ガクサン』(1)佐原 実波 (モーニング KC)

書店の学習参考書売場に行くと、たくさんの参考書があります。親が受験生の頃からバイブルだった参考書、人気講師のシリーズもの、最近SNSで話題になっている新刊など、いろいろありすぎて、どれが自分に必要なのかわからない! という経験をしたことがある人も少なくないはず。

 


出版業界に憧れてミーハー心で入った学習参考書の世界


『ガクサン』の主人公・茅野うるしは中途採用で中堅の学習参考書出版社の正社員になったばかりの26歳。営業部お客様ご相談係の内勤事務に配属されたのですが、入社早々、背が高くて無愛想なメガネ男性社員・福山に有無を言わさず連れ出された先は、とある書店。

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内勤事務と聞いていたのに、急遽、自社の参考書フェアに駆り出されたのです。福山は、「君の履歴書くらい採用時に目を通している」と言い、IT企業の派遣社員や、喫茶店や雑貨店でのアルバイトを経て中途入社したうるしに対して、「今回もどうせ『出版社』というちょっと洒落てそうな業界に惹かれて来たんだろう」「お得意の薄く広い知識をぜひ拝聴したいものだな」と言い放ちます。

出版業界に憧れていてミーハー心でこの会社を受けたことは否定できないものの、なぜほぼ初対面の人にそこまで言われなくてはならないのか……。参考書自体に興味もなければ、当然のことながら知識もない。でも、仕事を点々としてきたり、いろんな趣味をかじってみたりしたものの、自分にぴったりと当てはまり、胸を張って言える「答え」が見つからずにいるのは事実。福山の辛辣な指摘がうるしの胸に突き刺さります。

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そんな考え事をしながらぼーっとしていたところ、うるしは参考書を探しに来た中学1年生に「見たことない参考書ばっかだな……」「ここの本はどこがいいんですか?」と声をかけられます。ろくに答えられずにいると、福山は「ガキが使って頭のよくなる参考書はない」と言い放ちます。さらには、さっきうるしにダメージを食らわせたように、その中学生に対しても、小学生の頃は頭のいい奴キャラで名門私立中学に合格した途端についていけなくなって落ちこぼれたんだろう、そして今は「自力で勉強する方法すらわかってない」と言い放ちます。一応は“お客さま”のはずの中学生にも容赦ありません。

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中1英語から勉強し直して“潰し”ていく


福山の指摘は図星で、その中学生は、中学受験科目にはなかった英語をどう勉強したらいいかわからずにいたのです。泣きそうになる彼を前に、参考書での勉強の基礎について語り始める福山。参考書は解説を読んで問題を解くだけではなく、一番重要なのは「潰す」こと。潰し方も丁寧に解説します。言い方こそ愛想はないのですが、その内容は的確で説得力がありました。

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学校の授業を受けつつ、自分でスケジュールを組んで中学1年生の最初から勉強し直して「潰す」作業は、大人でも難しそう。福山は単に英語を勉強するだけでなく、参考書での自習を通して、体系的に何かを理解していく方法を自分のものにすることで、「好きなことをなんだって身につけられる人間になれる」と言います。ああ、この発言、自分が学生時代の時に聞きたかった……。

その流れでうるしが自社の参考書を勧めようとしたところ、福山が中学生の前に差し出したのは、旺文社の「とってもやさしい英語」。自社の本を売らなくてもいいの? 中学生はその参考書を手に取り、お礼を言って去っていきました。その後も、立ち寄る中高生に毒舌を吐きまくる福山。自社の参考書フェアなのに一冊も売れておらず。中学生とのやりとりを横で見て、福山の参考書に関する知識の深さと熱意に触れ、福山のことを見直していたうるしですが、お客様相談係なのにこんなことでいいのか? と疑問を呈します。

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福山の答えは、「自社だろうと他社だろうと いいもんはいい ダメなものはダメと言う」。会社員としては全くもってダメかもしれないけど、参考書が好きという点においては、福山はブレがなく、頑固すぎるほどに筋が通っていたのです。こうしてうるしは「学習参考書」の奥深い世界に入っていくことになります。

超ロングセラー参考書の舞台裏


これから、中途の新入社員であるうるしが、 “参考書オタク”の福山に参考書のイロハを教えてもらうことになるのですが、読者も、「そういうことだったのか!」という発見の連続。実在の参考書がたくさん出てくるので、なぜそれらが支持されているかがよく分かって面白い。もう受験なんて関係ないはずの世代でも、また手にとって勉強したくなるはず(勢いで買って積ん読にしてしまうともったいないので注意せねば)。

物語が進むにつれ、参考書選びに悩む学生や、参考書を作っている編集者、参考書を売る書店員などさまざまな立場の人たちが登場します。それぞれ個性ある面々なのはお仕事マンガならでは。3月23日に1巻が出たばかりですが、少しでも長く続いて、それぞれの立場の人にスポットを当てて深堀りした物語を読んでみたいと願いたくなる作品です。

ツイッターを見ていると、各書店が学習参考書売場と連携して作中で紹介した参考書を集めたフェア台を作っていたり、学習参考書の出版社がRTしていたりと、ここでも“ガクサン”界隈の熱量が感じられます。

それにしても、『チャート式』(数研出版)は1929年(昭和4)年、『英文標準問題精講』(旺文社)は1933(昭和8)年、大学入試過去問題集ででおなじみの『赤本』(教学社)は1954(昭和29)年から刊行されているってすごくないですか? しかも時代に合わせてちゃんとアップデートされているとのこと。『ガクサン』を読むと、こうした超ロングセラー参考書の秘密もわかります。

 

『ガクサン』第1話をぜひチェック!
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『ガクサン』
佐原実波 講談社

参考書の出版社に中途入社した茅野うるし。そこで出会ったのは、クセが強すぎる参考書オタクの福山だった。その行動は社会人としては失格なことばかりだが、参考書の知識は尋常じゃないようで!? 参考書オタク×サブカルミーハー女の、凸凹お仕事コメディ!