フリーアナウンサー馬場典子が気持ちが伝わる、きっともっと言葉が好きになる“言葉づかい”のヒントをお届けします。

 

言葉には、主観を表すものと、客観的に表すものとがあると思います。
そこで情報の受け手として気をつけているものの一つが、主観に左右されたり、人によって受け取り方が変わったりする修飾語です。

たとえば「前例のない」「過去最大規模の」などは、政府が成果をアピールする時などに使われ、前例がない=これまでにない凄いこと、とされていますが、そもそもやらない方がいいことだから(前例がない)、という場合も、他に良い方法があるから、という場合も、やるべきことなのに先延ばししてきたから、という場合だってあります。
修飾語を削いでいったら、何も中身がなかった……なんて答弁も少なくありません。
成果を強調したいなら、修飾語ではなく、データなどで示すこともできます。(データの正確性については、ここでは置いておきます)。

 

今は落ち着きましたが、一時期席巻していた「神○○」「○○過ぎる」などは手垢がついているうえ、時に盛りすぎとなり、ギフトにたとえるなら過剰包装や上げ底になっていることもしばしばでした。
言葉に踊らされることなく、修飾語を抜きにした「中身」やこれまでの「流れ」を冷静に見つめる必要があると思っています。

また、動詞にも主観がにじむことがあります。
たとえば、新聞で政治家の発言を取り上げる時。鉤括弧の発言の後に、「〜と強弁した」「強調した」「主張した」などと表現されます。どんな口調だったのか、発言者の心情や状況まで伝えるためには、客観的な「〜と話した」ではなく、記者の主観が伴う表現が重要な役割を担います。
ただ一方で、その報道機関が、政府や与党寄りか、反政府か、によって表現に差異があることは否めません。

同じように、文や記事の締めくくり方で印象が変わることは多く、この点も読者として気をつけたいな、と最近強く感じます。
たとえば、「ウクライナに向けてロシアの極東部隊が津軽海峡を通過した」というニュースで、ある記事は「ロシアが苦戦を強いられている」と結んでいました。「ウクライナがロシアの大型揚陸艦を撃沈」なども同じで、ロシアが苦戦しているからといって、ウクライナが勝つ、ということではありません。このニュースは、戦争がこれからも続くということ、より激しい戦いで双方に多くの犠牲者が出てしまうということを伝えているに他なりません。

紙面や時間には限りがありますが、ニュースの結び方ひとつで受け手の意識は変わります。気持ちをどこへ向けるべきか、世界はどこへ向かうべきか。
プーチンは酷い、という批判や、ウクライナは頑張っている、という応援で終わることなく、1日でも早く戦争を止める方向に空気を作っていくことも、今のマスコミの重要な役割なのかもしれないと、その端にいる一人として感じています。
同時に、一視聴者、一読者としても、「その先」を考えられる力を養っていきたいとも思っています。


さて、突然ですが、コトノハノコトは今回が最終回です。
最後はどんな話がいいかなぁ……と悩みつつ、結局これまで通り、今気になることを書き連ねてしまいました。
直接やり取りすることは叶いませんでしたが、コメントをお寄せ下ったり、いいねを押して下さったり、皆さまのお気持ちが大きな励みでした。
約1年間で記事数は44。お手手のシワではありませんが、4と4を合わせて「幸せ」の数。
本当にありがとうございました。
来年度からもここmi-molletで、また違った形でお会いできる予定ですので、これからもどうぞよろしくお願いいたします!

馬場典子

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