広島県尾道市と愛媛県今治市をつなぐ瀬戸内しまなみ海道。瀬戸内海の6つの島を結ぶ全長約60kmのその道は、サイクリストの聖地として世界的にも知られています。周辺には移住者が営むカフェや宿泊施設も多く、のどかな中にどこか洗練された雰囲気も併せ持つしまなみの島々。そのうちの1つ、橋を渡ればそこはもう四国という人口5600人ほどの島に、鷲尾ユミさんは家族で移住しました。都内に建てた家を数年で手放し、2019年から今治市の沖に浮かぶ大島で暮らし始めた鷲尾さん一家。移住の経緯や現在の暮らしについて伺いました。
退社を機に東京を離れる決心が
「私は高知で生まれ育ち、学生時代は神戸、働き始めてからは東京で暮らしていました。結婚してからは夫の仕事の関係で2年ほどアメリカに住み、帰ってからは横浜、川崎、東京と転々としていたんです。そんな暮らしをしていたので、家を構えるまでは1つの土地に執着することはありませんでした。だけど家を買って子どもができて生活基盤を固めると、動くのが少し億劫になってしまって。そんな時、夫がもう東京はいいんじゃないかという話をするようになりました」
旦那さんにそう言われて、家を買ったばかりなのになんで東京を離れないといけないんだという思いもあったという鷲尾さん。当時は会社員として働いていたこともあり、余計にピンと来なかったそうですが、息子さんが3、4歳の頃に退職して自分で事業を起こしたいと思うようになってからは、もう東京にいる理由はないなと思いました。
「会社を辞めた後も仕事は外注という形で受けていましたが、ネットを使って市場調査などを行っていたので、パソコンさえあればどこでもできる状況でした。それにいずれはゲストハウスの運営など、旅に携わることをやりたいと思っていたので、だったら東京にいる必要はないし、どこか海の見えるところに住んでみようかなと思ったんです」
橋でつながる島が移住候補に
「次に住むなら海の目の前!」と思っていた夫婦は、それから移住先を探し始めます。最初は沖縄も候補に上がりましたが、互いの親の年齢のことも考え、高知出身の鷲尾さんと兵庫出身の旦那さんの間を取って瀬戸内海で探すことに。旦那さんから「小豆島は?」という提案もありましたが、島に渡る手段は船しかありません。離島となると医療の問題もあるため、子どもが小さいうちは橋がつながっているところの方が安心ということで、しまなみ海道の島が最終的な移住候補になりました。
「最初は大三島(おおみしま)で探していたんです。建築家の伊東豊雄さんが10年ほど前からやられている活動の影響もあって、メディアにもよく出ている島で。移住者も増えていて、ブリュワリーやコーヒーの焙煎所、ワイナリーなどもできていていろいろ面白いなと。でもそこは理想の物件がなかったんですよね」
難航した海の前の土地探し
海の目の前に家を建てる前提で土地を探し始め、ネットで見つけた地元工務店の「土地紹介します」の文言を頼りにコンタクトを取ると、たまたま地元の人が親戚の別荘用に更地にした土地が残っており、一家は無事に移住先を確保することができました。
「昔は海風を避けるために山側に家を建てていたので、宅地で海側という条件で探すと結構大変で。たとえ空き家はあっても、お仏壇があるから、法事の時に集まりたいから、といった理由で手放す決心がついていないお宅が多いようです。不動産屋も都会と違ってそれほど積極的ではないので、あえて売物件にしていこうとは思わないんですよね。なので土地探しは難航しました。最終的に見つけた今の土地は、冬の海風がすごいだろうって地元の人に言われますが、私は高知の生まれなので太平洋の荒波や風に比べると全然で平気で(笑)」
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