マリッジブルーのような感情も


自宅の建築の目処が立った2019年4月、鷲尾さんはお子さんの小学校入学に合わせて移住します。旦那さんもいずれは勤め先を辞める予定でしたが、仕事の都合で当面は東京で会社員を続けることに。そのため、最初の8ヶ月は親子2人で島内の定住促進住宅に住むことになりました。

 

「市が管理しているその定住促進住宅は、特に移住者に特化しているわけではありませんが、公営住宅を遠方から来た方に貸すという感じで入居条件が緩和されていたんです。家賃も4万円以下とリーズナブルで、最初はその家で暮らし始めました。でも当時は少し寂しかったですね。自ら移住を決めたのに、マリッジブルーならぬ何とも言えない感情が押し寄せてきて。

ただ、島と言っても橋を5分渡れば今治の街に行けるので、外食をしたりして東京の生活の延長のような感じで過ごしていた部分もありました。そんな感じで都会の暮らしを引きずりながら、夕方になると息子は釣竿、私は缶チューハイ片手に近所の浜辺に行くのが日課になって。そこでは近所の優しい小学生が息子の釣りに付き合ってくれて、私はとにかく海が綺麗だなぁと思いながらぼんやり夕日を見ながら過ごしていました」

釣りも泳ぎも自由にできる自宅前の海。夕方から海に入ることも。


次第に慣れてきた島暮らし


仮住まいで暮らしながら、東京時代に受注した仕事を粛々とこなす日々。家にこもってパソコンに向かっていると、何のためにここに来たのかという気にもなったと話します。そこで島のカフェや公園、時にはサービスエリアに行って気分転換を試み、早々に今治で通うヨガスタジオも決めて、仕事の合間に可能な限り自転車で通うようになりました。

公営住宅から今治のヨガ教室は往復30キロと通える距離だったので、サイクリストに混ざって自転車で橋を渡ることも。「週末は平日と違って家族連れも多く、こちらもプチ旅行気分でした」

また、母だけでなく、息子さんも少なからず東京に未練を残してきたそうですが、1ヶ月ほど経ったある日「東京の言葉って“だからさ”って言うの長いやろ。“やけん”て楽よ」と言い出して、自然と方言を使うように。そんな都会育ちの息子さんが入学したのは、1学年わずか17人という小学校でした。

「私自身が田舎の出なので、同級生が少ないことには抵抗がありませんでした。自分が子ども時代に経験しているので、何となくイメージが湧くじゃないですか。運動場は広くて1人あたりの使える広さが東京とは全然違いますし、放課後学童に行ってギュッとしたスペースにいる必要もなく、自由に校庭を走り回れるというのは子どもにとってすごくいいことなんだろうなと思いました。

それからこれは東京を出た直接的な理由ではありませんが、住んでいた目黒界隈ではほとんどのお子さんが中学受験をするので、当時はそんな話を見聞きして少し落ち着かないなとは思っていました。うちは小学校時代は伸び伸びさせたいと思っていても、人がやっているのを見て焦ってしまったらどうしようとか、気持ちがザワザワするのが嫌だなと。だったら最初からそこから距離を置いた方がいいかもと思ったりはしていましたね」

自宅の前の浜辺でバーベキュー。「旅するように暮らす」をコンセプトに家を建てました。


過干渉しすぎないちょうどいい環境


移住から8ヶ月が経ち、2021年1月から晴れて家族全員での生活を始めた鷲尾さん一家。住んでいるエリアは、地元の高齢者世帯に加え、島外から引っ越してきた家族、同じ小学校のお子さんがいる家、それから別荘とマリンスポーツの拠点のボート小屋がポツポツとあるような地域です。一家が地域に馴染むのにそう時間はかかりませんでした。

「移住者慣れしているというのもあると思いますが、昔と違って純粋な島生まれ島育ちの方だけでなく、結婚を機に来た人、同じ愛媛県内から来た方も人もいて、皆さんがイメージするほどクローズドなコミュニティではないと思います。田舎の方はプライバシーに立ち入ってくるという話も聞きますが、ここは土地柄なのか皆さん穏やかで。散歩中に会えば挨拶してくださいますし、かといって過干渉ではないのでちょうどいい感じですね。近所のおばあちゃんたちがお裾分けしてくれることもあって、自分もつまみを多めに作って分けられるよう、ジャムの瓶を置いておく習慣ができました。そういう変化も面白いですね」

移住して良かったことは「直感的に気持ちがいいと思える時間が増えたこと」と話す鷲尾さん。次回は移住から3年が経ち、暮らしがどのように変化したのかを伺っていきます。

隣の島でバスケを習っている息子さん。自宅の敷地内に設けたゴールで今日も練習。
 
 


大島で出会うさまざまな景色
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撮影/鷲尾ユミ
取材・文・構成/井手朋子

 


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