2000年代初期、ハワイのショッピングモールでアバクロ詣でするのが楽しみでした。私にとってアバクロは、「アメリカ」のかっこいいイメージがぎゅっと詰まったようなブランド。棚に並ぶ商品にこれでもかというほど吹きかけられたコロンの香り漂う薄暗い店内に、大音量でかかるBGM。入り口には気怠そうな半裸のイケメン店員が踊ったりおしゃべりしながら立っていて、特に接客するわけでもなく、たまに香水をプシュプシュ振り撒いているだけ。そんな不思議な店、アバクロことアバクロンビー&フィッチは当時、イケてる男女のアイコン的ブランドとして君臨していました。

それが、日本第一号店の銀座店がオープンした2009年以降は徐々に人気が下火になり、2015年には何と、全米で最も嫌われるブランドにまで名声は失落。その盛衰を描いたドキュメンタリー作品が、Netflixで配信スタートになりました。タイトルもそのままずばり、『ホワイト・ホット アバクロンビー&フィッチの盛衰』。あの頃のアバクロ・ブームを知る人には、かなり興味深く観られる内容となっています。

『ホワイト・ホット アバクロンビー&フィッチの盛衰』のメインビジュアル。写真:Everett Collection/アフロ

100年以上の伝統ある男性用アウトドアブランドだったアバクロンビー&フィッチを、後に「モールの魔術師」と呼ばれるようになる、レス・ウェクスリー率いるLブランズが買収。そして90年代初期にマイク・ジェフリーズがアバクロのCEOに就任すると、ブランドの快進撃が始まります。

 

マイクはアメリカの名門私立大学生たちが好んできていた「ラルフ ローレン」や「トミー ヒルフィガー」といったプレッピー・ブランドに、当時ケイト・モスのヌードを広告に起用しセックス・アピールを全面に打ち出していた「カルバン クライン」をMIXしたようなアバクロのブランドイメージを作り出し、これが大ヒット。伝統+エリート主義+セックス+排他的というマイクの成功の方程式が、大金を生み出す鍵となったのです。

 
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