言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。
これは人生のささやかな秘密の、オムニバス・ストーリー。
意外な「密告電話」
土曜日の午後、涼子はカレンダーを見てため息をついていた。
義母の早苗と、気まずい別れから1週間。こちらから、旅行の代わりに誕生日会の提案をしてみたものの、メッセージは既読スルー。正直に言えば、そんな子どもっぽい反応にこれ以上手を尽くす義理もないかと、静観していた。しかし、さすがに1週間、誕生日当日になっても反応がないとは、これまでの早苗の行動パターンを鑑みても予想もしない事態だった。
――だけど冷静に考えても、急に旅行、しかもまとまったお金が必要なんだもん、快諾できないからって怒られてもなあ。
頭ではそう思うものの、早苗の最後の怒ったような、きまり悪いような顔が忘れられない。そうかと言って、内心気が進まないのに、際限なく義母のわがままに付き合うのも先々のことを考えればよろしくない。そのモヤモヤの全てが、どんよりと涼子にのしかかっていた。
まったく、親戚づきあいとは、義母とは、かくも心を乱すものなのだろうか。
これまで嫁と姑という意識もなく、いかにお気楽に過ごしていたのか、涼子はしみじみと実感していたところでその意外な電話は鳴った。
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