言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。

これは人生のささやかな秘密の、オムニバス・ストーリー。

 


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これまでの話出版社で働く涼子は、大学時代の同級生・晃司と結婚、二人の娘も中学生。ある日、神戸の義両親が一軒家を売却し、東京に中古マンションを購入したと聞かされる。いい距離感だと思っていた義母・早苗に振り回されはじめる涼子。早苗の誕生日祝いに温泉旅行に誘われるものの急の誘いであることと、10万円以上の出費になることから断ると、早苗は急に怒りだし……?


意外な「密告電話」

 

土曜日の午後、涼子はカレンダーを見てため息をついていた。

義母の早苗と、気まずい別れから1週間。こちらから、旅行の代わりに誕生日会の提案をしてみたものの、メッセージは既読スルー。正直に言えば、そんな子どもっぽい反応にこれ以上手を尽くす義理もないかと、静観していた。しかし、さすがに1週間、誕生日当日になっても反応がないとは、これまでの早苗の行動パターンを鑑みても予想もしない事態だった。

――だけど冷静に考えても、急に旅行、しかもまとまったお金が必要なんだもん、快諾できないからって怒られてもなあ。

頭ではそう思うものの、早苗の最後の怒ったような、きまり悪いような顔が忘れられない。そうかと言って、内心気が進まないのに、際限なく義母のわがままに付き合うのも先々のことを考えればよろしくない。そのモヤモヤの全てが、どんよりと涼子にのしかかっていた。

まったく、親戚づきあいとは、義母とは、かくも心を乱すものなのだろうか。

これまで嫁と姑という意識もなく、いかにお気楽に過ごしていたのか、涼子はしみじみと実感していたところでその意外な電話は鳴った。