住む、働く、学ぶ、保護される……、人として生活するための権利をくれたもの。


――結婚してもうすぐ1年になりますね。遅ればせながら、おめでとうございます。実際に結婚されてみて、良かったと感じていることって何でしょう?

Kan ありがとうございます! やっぱり法的に守られているところですよね。今って日本にも、「自分たちって家族だよね」と思っている同性カップルや性的マイノリティカップルがたくさんいると思うんです。でも家族としての法的な保障となると、何もない。物理的に苦しんでいると思うし、そこからくる精神的な不安にも苦しんでいると思うんです。特に僕たちの場合は、結婚をしなければ、次にいつ会えるかわからなかった。だから僕はイギリスで結婚できて、法的に守られるようになったことが一番良かったと感じています。

法的に守られるというのは、まず実際こうしてイギリスに住むことができるし、働くこともできていること。外国籍だから、結婚しなければ住むのも働くのも難しいんです。あとは学校にも行けるし、医療のサービスも受けられる。人として生活するための権利を、僕は結婚によって付与されたんだなあと、あらためて感じています。

 

――結婚という形をとれない場合、逆に何が一番のデメリットになると感じていましたか?

Kan 僕にとっては、やっぱりパートナーに会えないことでしたね。2020年のパンデミック以来、日本はほとんどの外国人の入国を認めていなかったので、パートナーが日本に来ることはできなくなりました。だから会うとしたら僕がイギリスに行く手段しかなかった。だけど、日本への入国時は2週間、イギリスへは10日間ぐらいの隔離期間があって。となるとただ会いにいくだけで、1ヵ月ぐらい仕事を休まないといけない。これは日本での仕事を辞めて結婚して移住しない限り、現実的に厳しいな、ほぼ会えないなって思ったんです。


よく「結婚したかったから結婚したんですか?」という聞かれ方をすることがあるんですけど、結婚をしたかったというよりは、再会して一緒に住むためには結婚の制度が必要だった、というほうが近いと思います。もちろん、お互いが好きっていうのは大前提なんですけど。

――日本で結婚できるなら、そちらを選びたかったという思いはありますか?

Kan そうですね、検討したかったですね。イギリスに移住する選択肢があったことは良かったんですけど、そのために好きだった仕事を辞めたし、家族や大好きな日本の友達とも離れなくてはいけなくなりましたから。それはもちろん、国際結婚する異性カップルにも言えることですけど、僕の場合は自分の意志で決められなかった。こうするしかなかった、というのは何か悔しかったですね。

パートナーのTomは日本に住んだことがないから、何年か生活してみてどういう感じか経験してみたいって言っていました。日本でも同性婚が制度として実現していたら、日本で結婚生活を送っていた可能性はけっこうあったと思います。

そもそも結婚後、みなさんずっと同じ場所に住むとは限らないですよね。日本国内だけでも、いまは東京に住んでいるけど今度は違う都道府県に住んでみよう、とかあるじゃないですか。同じように、日本で結婚できていたら「今は日本に住んでいるけど、今度はロンドンに住んでみよう」といった選択ができるわけです。たとえば「今は僕の家族の近くにいたほうがいいよね」という状況だったら、2〜3年は日本に住む。でも今度はTomの家族の近くにいたほうがいいよねとなったらイギリスに移り住む。どちらの国でも結婚が認められていたら、そういったこともできますよね。

――もしKanさんが日本にいる家族の看病などをしたいとなっても、一人で戻ってきて住むしかない。

Kan もしくはTomの観光ビザが認められれば、その範囲内でステイする……。今はできないですけど。ただそれだと、扱いとしてはあくまで他人で、Tomはただの観光客ですよね。家族として扱われない。

家族といえば、実際に結婚してみて「不思議だなあ」と思ったことがあります。僕はイギリスでは結婚しているけど、日本ではそれが認知されていないので、今も戸籍は何も変わっていないんですよ。僕は弟がいるんですけど、彼は結婚しているので親の戸籍からは除かれているんですね。僕も法的に結婚しているということではまったく同じなのに、日本では同性婚であるために認められていないので、変わらず独身として親の戸籍の中にいるんですよ。すごく不思議だなあと思います。

――今も独身のまま。じゃあ変な話、日本で結婚しようと思えば可能ってことですかね?

Kan そう言われてみると、そうかもしれませんね! 考えたことがなかったですけど。