SNSとは切っても切り離せない現在、複数のアカウントを使い分けている人は少なくありません。「人に知られずに、気兼ねなく好きなことを楽しみたい」「人に知られたくないから匿名でいたい」「普段の自分とは違った自分として振る舞えるのが楽しい」など、その理由はさまざまです。アフタヌーン編集部発のWebマンガサイト「&Sofa」のオリジナル作品『不動さんの裏垢活動』は、とある中年男性の“裏垢”を巡るストーリー。裏垢は後ろめたいことばかりではなく、使う本人や使い方次第なんだな、ということに気付かされる、素敵なお話です。

『不動さんの裏垢活動』(1) (アフタヌーンKC)


中年会社員の密かな楽しみは、美脚の自撮り


出版社の販売部で働く不動敬一は、仕事を淡々とこなし、家と会社を往復するだけの42歳独身男性。「俺の人生は とにかく映えない」ということを自覚しています。

 

帰りのバスの中で目に入ったのは、女子高生が見ていたスマートフォンの画面。若い世代を中心に流行しているSNS「KLART」で、美形男子高校生がライブ配信をしているところでした。“映えない”側の不動からすれば、その男子高校生は明らかに“映える”側。彼らのような目を引く人間は、自然と周囲の視線や称賛が集まるようになっているもの。そうじゃない立場の人間は、人から注目を集めることはないため、承認欲求を満たされることもなく、さらには孤独感にさいなまれることもある。不動は常々そう考えていました。

 

そんな持論を持つ不動がたどり着いたのは、美脚の自撮り“裏垢”。小さい頃から何の取り柄もなかった不動ですが、中学時代にクラスの女子に脚の美しさを褒められたことがとてもうれしかったという経験がありました。自宅でこっそりと美しいストッキングやヒールを履いて自撮りするのが密かな楽しみとしていたのですが、1年前に敬という名前の裏垢を作り、自分の写真を投稿するようになっていたのです。

 


家に帰り、ビールを飲みながら投稿した写真に「いいね」やコメントが付くのを眺めるのが至福のひととき。中身がおじさんとバレずに、自分の脚を褒められるのはとても幸せなことだったのです。

 
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