サウジアラビア、モロッコ、インド、アフガニスタン、日本。これらは2021年度のジェンダーギャップ指数ランキングで156国中140位以下だった国です。そして、やまじえびねさんの新刊『女の子がいる場所は』の舞台でもあります。5つの国の10歳の少女たちが主人公で、Twitterでの試し読みツイートに5万以上もいいね! がつき、6月10日に発売されてからたった3日で増刷されたという話題の作品です。

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『女の子がいる場所は』  (ビームコミックス)

サウジアラビアの首都・リヤドに住む10歳の少女、サルマ。彼女の家の週末は、父親が帰ってくる木曜と金曜です。ある日、サルマは父親にミサンガをもっと上手く作れるようになりたいと言います。すると、父親はミサンガ作りの名人という「遠い親戚のおばさん」を教えてくれました。学校帰りに彼女と会ったサルマは驚きます。

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サウジアラビアで女性が車を運転できるようになったのは2018年。また、サルマの母親は運転する女性ではないこともわかります。
アミーラの家で複雑な柄のミサンガの作り方を教わったサルマはお願いします。

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一瞬の間を置き「ママがOKならね」とアミーラは言いました。含みのある言葉と、帰宅後にアミーラの話をした時の母親の様子で、サルマは母親とアミーラはすでに知り合いなのだと察します。
サルマの日常を通して、サウジアラビアの女性が置かれた「場所」が見えてきます。たとえば、お姉さんの結婚式に出席するのだと話す同級生。彼女はもう自分の結婚相手の心配をしています。まだ10歳なのに。

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同級生の話に違和感を覚えたサルマですが、彼女はかつてサッカーで一緒に遊んだ男の子を見かけても近づくことも声をかけることもできません。なぜなら⋯⋯。

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週末、サルマは将来の夢を父親に聞かれ「パパみたいなお医者さんか弁護士になりたい」と答えます。「それは立派だけどたくさん勉強しないとなれないよ」と言う父親にサルマはきっぱり言います。

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母親は真剣な顔で、続けて言います。

サルマはパパに似て勉強ができるから どんどん外へ出るべきよ

 

この後、母親とアミーラ、父親の関係には、切実で複雑な事情があったことを知るサルマ。「サルマがいてなに不自由なく暮らせているのは、アミーラのおかげよ」と母親は言い聞かせますが、サルマは思うのです。

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わたしたちは結婚しないと生きていけないの ママ?

自分の国では女性が抑えつけられていることを肌で感じるサルマ。彼女の他、モロッコ、インド、アフガニスタンなどの10歳の少女たちは、周りの女性たちを見て「自分の置かれた場所の低さ」に気づきます。女は勉強なんてしなくていい、と教育の機会を奪われ、結婚や出産を優先させられる。その後も知識や学歴がないので一生男性に頼って生きるしかない。彼女の母親や祖母たちは、抑圧から逃げたくても社会に命を握られていて、逃げることができないのです。

いやいや、日本はサウジアラビアみたいにヴェールを被らなくていいし運転だってできるのだからもっと自由よ、と思って読んでいると、母や祖母の代の女性たちが彼女たちに言う言葉の数々にハッとさせられます。

「女の子がメガネとはどうしたもんかね⋯⋯」

「この子は背が高すぎるよ!」

「女の子なんだから勉強なんてできなくていいのよ」

こんな風に「女の子だから」と言われたことが一度はあったはず。教育よりも結婚や出産を当然のごとく優先させられる各国の少女たちは、私たちともつながっている存在。そう、本作の最終章は日本が舞台なのです。

日本の章に登場する「女の子は勉強なんてできなくていい」と言う祖母について、作者・やまじえびねさんのTwitterアカウントに「描かれているおばあちゃんはもう一世代上の女性のような気がする」といった意見が寄せられていました。それに対し、やまじさんは「私も今の小学生の祖母はこんなこと言わないと思ってました。しかしこういう物言いをする60代らしき祖母を新聞投書で発見し、想像を膨らませました。祖母の親は当然もっと上の世代ですから、その親に言い聞かせられたことを無意識に言ってしまうこともあると思うのです。」と返答。


この返答にドキッとさせられました。祖母や母親から言われてきた言葉を、私たちは若い世代に向け無意識のうちに繰り返してないと言い切れるでしょうか? 抑圧から逃げたいと思っているのに同じ「場所」を再生産してきた立場にも私たちはいる。このことを忘れてはならないのだと思います。

勉強や本が好きなのに、周りの大人たちによって可能性を閉ざされそうになる10歳の少女たちを見ていると悔しさとやるせなさで涙があふれます。この先、抑圧の壁を砕いていってほしいと願うとともに、私たちが彼女たちの前に壁を作り直すことのないように、とも思うのです。

 

【漫画】『女の子がいる場所は』第1話を試し読み!
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『女の子がいる場所は』
やまじえびね (著)

「わたしたちは結婚しないと生きていけないの?」
一夫多妻が認められているサウジアラビアに暮らす10歳の少女サルマ。同級生の姉は、顔も見たことのない8つ年上の人と結婚する。外ではヴェールが必要で、大好きだったサッカーはもうできない。モロッコ、インド、アフガニスタン、そして日本⋯⋯国も宗教も文化も違う10歳の少女たちの物語。


作者プロフィール 

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やまじえびね
1985年に「LALA」(集英社)でデビュー。同誌で4年間執筆後、一時の活動休止を経て、「コーラス」(集英社)「フィールヤング」(祥伝社)で主に作品を発表する。女性同士の恋愛を描いた『LOVE MY LIFE』(祥伝社)は2006年に映画化され、作家の石田衣良が初出演し話題に。その他の代表作には『夜を超える』『愛の時間』(祥伝社)『レッド・シンブル』(KADOKAWA)などがある。
Twitterアカウント:@ebine_comix


(C)やまじえびね/KADOKAWA
構成/大槻由実子
編集/坂口彩
 

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