2022年上半期に日本中、いや世界中を席巻した映画『ドライブ・マイ・カー』。妻を亡くした男性が、出張先で専属ドライバーの女性と出会ったことをきっかけに、今まで目を背けてきたことに気付かされていく……といった、ミステリーと人間ドラマが融合した物語です。

例えるならば、『ドライブ・マイ・カー』に劇薬のような刺激をプラスした……。そんな今話題の漫画をご存じでしょうか? その名も『雪女と蟹を食う』。なんと、7月8日(金)から、重岡大毅(ジャニーズWEST)さん主演で実写ドラマの放送がスタートする本作。今回は気になるあらすじとその魅力に迫ります。

『雪女と蟹を食う』(1)(ヤングマガジンコミックス)


死にたがりの男が“人生最後の日”について考えてみた

 

うだつの上がらない自分の人生に絶望した主人公・北。自殺を図ろうとするも、最後の一歩が踏み出せず未遂に終わってしまいます。

 

その夜、「死ぬ前に全財産使おう」「死ぬ前に人妻デリヘルを呼ぼう」と、人生最後の日にあれこれ思いを巡らせますが、TVから流れてきた情報番組を見て決意するのです。「人生最後の日は人妻よりも北海道で蟹を食おう」と。

 


人妻との運命的な出会い、そして許されない一線を越える

 

そうと決めたら北海道へ出発するだけですが、家の近くの図書館で片道にかかる料金をリサーチし始める北。挙句、どうせなら海鮮丼やジンギスカンも……と、人生最期の日を意識すればするほど、欲求が膨れ上がっていきます。

 

そんな北が図書館で偶然出会ったのが、こちらの美しき人妻(雪枝彩女)。あろうことか何の罪もない彼女をやっかみ、人として許されない一線を超えてしまうのです。

 

突然、家まで押しかけられ、脅迫されているにも関わらず、顔色を変えずに落ち着いて対応する彩女。北は自分の欲望を吐き出すかのように、そのままベッドへとなだれ込みますが、彼女はまるで全てを見透かしているかのように不敵な笑みを浮かべます。その姿を見た北は、気後しながらもぼんやりとこんなことを考えるのです。「雪女が現実にいたらこんな顔で笑うのだろう」と。

 


「蟹を食べる」そのために、絶望した男と人妻は車を走らせ北海道へ

 

体を重ねたことですっかり気が抜けてしまった北は、自殺しようとしていること、そして死ぬ前に蟹を食べたい、という願望を彼女に打ち明けます。そして、北の突拍子もない計画に賛同する彩女……。こうして、2人は蟹を食べるために北海道へと車を走らせ旅に出るのです。
 

まるで劇薬版『ドライブ・マイ・カー』

 

北と彩女が北海道へと向かう車中で徐々に明らかになる、彩女の本当の正体や秘めた思惑……。『ドライブ・マイ・カー』では、妻を亡くした男性が、出張先で出会った専属ドライバーの女性との交流、車中での会話を通して、亡き妻の本当の姿や自分が見過ごしてきたものに気付かされていきますが、『雪女と蟹を食う』の北と彩女の車中の会話からは似たものを感じます。

ですが、北の行動はもちろん、それに対する彩女の振る舞いなど、本作では一つ一つの出来事が劇薬のように刺激的。『ドライブ・マイ・カー』のようなミステリー、人間ドラマとしての面白さがありながらも、この刺激が本作を“劇薬版ドライブ・マイ・カー”をたらしめる所以なのです。

また、北が死を意識したことで生まれた「蟹を食べたい」という欲望。それは、危険な一線を超えて人妻との逃避行へと姿を変え、さらには今まで感じたことのない愛という感情を彩女に抱くように……。世の中に絶望したから死を覚悟したのに、そのお陰で生きる希望とも言える欲望と愛を手に入れてしまうのは、なんとも皮肉です。

この2人の旅路の果てに何が待ち受けているのか? ぜひドラマ放送前に原作をチェックしてみてはいかがでしょうか。
 

 

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『雪女と蟹を食う』
Gino0808(著)

人生に絶望し自殺を図ろうとした男・北はたまたま目にしたTV番組で今まで一度も蟹を口にしたことがないことに気づく。「人生最後の日は北海道で蟹を食べたい」しかし金のない北は旅費を得るために強盗を決意する。高級住宅に押し入り人妻に金を要求するが、彼女の行動は全く予期せぬものだった……。


<作者プロフィール>
Gino0808

『蝉の鳴く頃』『童貞噺』などを手掛けたWEB漫画界の新星。『蝉の鳴く頃』全4巻、『エゴイストブルー』全2巻 『雪女と蟹を食う』全8巻が発売中。
Twitterアカウント:@0808gino