2022年4月3日に開催された第64回グラミー賞会場にて。(写真:The Mega Agency/アフロ)

突然、「グループ活動を暫定的に控え、個人活動により集中する」と発表したBTS。7人の心の内は、涙ながらに葛藤を吐露したYouTubeチャンネルだけでなく、6月3日にリリースしたアンソロジーアルバム『Proof』の歌詞からもくっきり浮かび上がってきます。

そんなBTSの世界観とデビュー初期からの歩みを哲学で読み解いた本が、『BTSを哲学する』(チャ・ミンジュ著、桑畑優香訳/かんき出版)です。『Proof』にはBTSのどんな思いが込められているのでしょうか。著者のチャ・ミンジュさんに、最新アルバムから見えるBTSの本音について聞きました。

※文中の歌詞の翻訳は、BTS公式YouTubeチャンネルに掲載されたものはそちらを引用。それ以外は訳者の翻訳です。

 


BTSはなぜ、9年間休まず一生懸命走った記憶を「Proof」と名付けたのか


――BTSが6月10日にCD3枚からなるアンソロジーアルバム『Proof』をリリースしました。1枚目は歴代アルバムのタイトル曲、2枚目はメンバーが選んだソロ曲とユニット曲、3枚目は歴代楽曲のデモバージョンや以前作曲したけれど収録しなかった曲という構成です。アルバムを実際に聞いて、全体的なコンセプトから見えてきた、BTSの哲学について教えてください。

チャ・ミンジュさん(以下チャ):聴くだけで記憶が鮮やかに蘇る曲がありますね。わたしの場合、「I’m a born singer」という歌詞を聴いた瞬間、JUNG KOOKさんがライブで涙を流しながら「Born Singer」を歌った光景が脳内で自動再生されるのです。BTSのメンバーは、「Born Singer」を歌いながら、どんなことを思い出しているのか、気になります。

今回のアルバムを聴きながら、わたしの心の中で、BTSが濃いアイメイクをしていた時代のエネルギッシュな音楽から、洗練されたファッションでパフォーマンスする最近の曲までの9年間、目と耳に刻まれた感情の記憶が順番にリプレイされました。その記憶に名前をつけるとしたら「Joyful」でしょうか。

チャ・ミンジュ/韓国で生まれ育つ。輝きながらも声を発することのない現象やモノ、人々に対して関心や愛情を抱き、文章を書きはじめる。哲学とデザイン学、美学、経営学に興味をもち、文学と美術、音楽と建築をはじめ、さまざまな実用芸術を愛している。弘益大学でオンラインでのイメージを利用したコミュニケーションに関する論文で美術学博士号を取得。西洋哲学者たちの理論をオタク文化で解釈し、オタク文化の価値と意味を熟考した努力の結晶である『オタクと哲学者たち』を2021年に出版。今後もオタク文化に対する偏見を正し、哲学の大衆観点からオタク文化の価値を伝えるために努力していきたいと思っている。


では、BTSはなぜ、9年間休まず一生懸命走った記憶を「Proof」と名付けたのでしょうか。

今回のアルバム『Proof』は、7人が9年間の活動で、自ら得た「証明の過程」ではないかと思います。彼らはデビューからの9年間を立証(proof)したのです。 


“Yeah the past was honestly the best
But my best is what comes next “
(「Yet To Come」の歌詞より)


名門大学に入学するために熾烈な努力をした学生にとって、最も価値があるのは大学合格ではなく、徹夜で勉強した記憶かもしれません。トップの座に就いたBTSにとって、一番価値があるものは、輝くトロフィーではなく、9年間一生懸命ソングライティングに打ち込み、ライブを開催してproofした「記憶」ではないでしょうか。

BTSの本当の戦利品は、授賞式のトロフィーではなく、音楽で「証明した記憶」なのだと思います。賞状ではなく、「証明する過程」が、最も輝く瞬間だったのです。

努力の末に手にした証明の記憶を整理し、走り続けながらさらなる未来の美しい記憶のために準備をするというのが、アルバム『Proof』に込めたメッセージではないかと思います。


“さぁ今から始まりだ、the best yet to come”
(「Yet To Come」の歌詞より)