そんな彼女にとって、主人公ドンベクはまさにハマり役でした。物語の舞台となっているのは、オンサンという小さな田舎町です。都会的な美女……という感じは一切ないけれど、“オンサンのマドンナ”と呼ばれ、どこか放っておけない魅力に溢れるドンベク。
美しくて洗練された韓国女優はたくさんいますが、コン・ヒョジンのように素朴さに溢れる女優はそう見つかりません。そんな彼女に、ドンベク役はぴったりです。
10歳年下には見えない貫禄! 実力派俳優カン・ハヌル
そして相手役ヨンシクを演じるのは、人気俳優カン・ハヌル。冒頭で触れた「百想芸術大賞」では、ヒョンビンとパク・ソジュンもノミネートされた最優秀演技賞で、彼らを抑えて賞を獲得しました!
カン・ハヌルは芸能界でも、人の良さと謙虚さに定評がある人物。彼が演じた警察官のヨンシクも、裏表も飾りっ気も一切なく、仕事も恋愛も猪突猛進な姿が印象的で、カン・ハヌルのキャラクターと重なる部分が多くありました。
コン・ヒョジンとは実は10歳差ですが、全く年齢差を感じさせず、同世代のカップルのようにしか見えません。それはコン・ヒョジンの若見えのおかげももちろんありますが、カン・ハヌルの貫禄によるものでしょう。現在32歳、しかもドラマ放送当時はまだ20代でしたが、“味のある魅力”がたっぷりの俳優。
韓国ドラマによくありがちな、キラキラの美男美女カップルを見てキュンキュンするのももちろん楽しいのですが……。コン・ヒョジンとカン・ハヌルという演技力抜群の二人が演じる等身大のカップルは、キュンキュンというより観る人の胸を熱くしてくれます。
だからこそ、韓ドラ大激戦と言われた年でも、他のドラマと一線を画すことができたのでしょう。
ドラマを盛り上げるのは「国民の母」たちの演技力
そして主演の二人だけでなく、脇役勢も抜群の演技力を誇る俳優ばかり。
その中でも特に注目なのが、“母親役”を演じた女優たちでした。物語を通して一貫して描かれているテーマの一つが、「母の愛」。それゆえに、本作における母親役は特に重要なのです。
主役のドンべクは、幼い頃母親に捨てられた過去を持ち、常に悲壮感に苛まれながら人生を過ごしてきました。ところがある日、母親が突然ドンベクの前に姿を現します。しかも認知症を患って……。
その母親役を演じたのが、イ・ジョンウン。大ヒット映画『パラサイト 半地下の家族』の家政婦役で、世界中から注目を浴びた女優です。
実はイ・ジョンウン、これまでも数々の名作で母親役を演じてきています。韓国ドラマを見ていると、「あれ、またこの女優さんがオモニ(母親)を演じてる……!」ということが度々ありますよね。韓国では「国民の母」と呼ばれる女優が何名か存在しますが、イ・ジョンウンもオモニ役で引っ張りだこの女優の一人。『椿の花咲く頃』での母親役も、見事に演じました。
そして本作には、韓国で長年にわたって「国民の母」の座を維持し続けている、大ベテランのオモニ女優、コ・ドゥシムも出演。カン・ハヌル演じるヨンシクの母を演じています。
ヨンシク母は、夫に早く先立たれた自分の境遇を重ね、シングルマザーのドンベクに同情して優しく接していましたが、息子ヨンシクとドンベクが愛し合っていると知って態度が急変。同じ母親としてはドンベクを応援していたはずなのに、息子の嫁としてはシングルマザーの彼女をどうしても受け入れられずに葛藤するのです。
これまでも様々な韓国ドラマで、母親に捨てられたエピソードが登場することは多くありましたし、愛し合った二人が親に結婚を反対されるという設定に関して言えば、もはや“韓ドラあるある”。
しかし今までの韓国ドラマでは、親は単なる悪役として描かれるのみで、物語のドロドロ要素を強めるスパイスとしてこれらのエピソードが投入されていました。
『椿の花咲く頃』が既存のドラマと大きく異なるのは、子ども目線だけでなく、“親目線”で描かれているため、親の思いや葛藤までもが明らかにされている点。
ドンベクが自分を一度捨てた母親に同情し始め、一緒に暮らし始めた時には、「なんでこんな最低な親を許せるんだろう……」と理解できない視聴者も多かったでしょう。私もそうでしたが、母親の言動を見ているうちに、気づけばドンベク母が憎めなくなり、むしろ影でドンベクを守ってくれている心強い存在として見るようになっていました。
ドンベクとヨンシクの交際を断固として認めないヨンシク母についても、いつもの韓国ドラマだったらただの邪魔者的存在になってしまうのですが、本作では、息子を心から大切に思うヨンシク母の立場もわかるので、一概に彼女を責めることはできません。
子ども目線ではわからなくても、親には親なりの愛の形がある、ということをフラットに描写しているドラマだと感じました。
年齢を重ねるにつれて、自分の親に対する思いが変化した、という人も少なくないと思います。中には関係が悪化してしまった例も耳にしますが、昔よりは良い関係が築けるようになったという人の話を聞くと、「若い頃は全く理解できなかった親の思いが、今はわかるようになった」といいます。
私も同じです。口うるさいと感じるだけだった小言も、過干渉すぎる態度も、自分が大人になっていろんな経験を重ねて、40代になった今ようやく気づきました。「あれは、母なりの愛だったんだなあ……」と。
そういえば母親から交際を反対されたこともありました。当時は母のことが憎くて憎くて仕方なかったけれど、今となっては母の気持ちが理解できます(笑)。
『椿の花咲く頃』を観ながら、自分自身と母親の関係についてもあらためて振り返させられました。
後編はこちら
後編では、ドラマに出てきた韓国料理のレシピを公開中!>>>
前回記事「チャン・グンソクに、クォン・サンウ。かつての韓流ブームを支えた韓国スターたちの現在は?」>>
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