誰もが抱えるささやかな「嘘」にまつわる、オムニバス・ストーリー。 

これまでの話早穂子(52)は生まれも育ちも港区白金台。商社マンの夫・陽一(55)と結婚してからは、専業主婦として1人息子の光輝(27)が東大から一流銀行に就職するのをサポートしてきた。その光輝が連れてきた彼女・桃田真凛(23)は妊娠しており、スピード結婚をするというが、息子を心配するあまり反対してしまう。そんな中、病院から連絡があり、真凛が仕事中に倒れたとのこと。大事には至らないが、そこで早穂子は思いがけず真凛の素直な反応に戸惑う。
 


「優しい嘘をひとつだけ」連載一覧はこちら>>


光輝の予想もしなかった本心

 

「お母さん、昨日はありがとう、本当に助かったよ」

久し振りに実家に寄った光輝は、家に着くなり早穂子に頭を下げた。

「大阪から帰ってきたのね、真凛さんの病院には寄って来たんでしょうね?」

「もちろん! 本当は昨日の夜すぐに東京に帰りたかったんだけど、役員のアテンドで簡単にはいかなくて。お母さんが真凛についていてくれて助かったよ、ありがとう。真凛は明日にも退院できそうだ」

屈託なく大阪土産を差し出す光輝を、早穂子はじろりと睨む。

「だからと言って、私が真凛さんとのことを全面的に認めたわけじゃないのよ。だいたい、真凛さんのご両親はどうなってるの? いくら仲違いしているからって本当に連絡しなくていいの? 」

光輝はうーん、と考えこんでから、おもむろに口をひらいた。