誰もが抱えるささやかな「嘘」にまつわる、オムニバス・ストーリー。
意外すぎる同居の申し出
「光輝……! うちで真凛さんと一緒に暮らしたいなんて、どういう風の吹き回しなの? あなた、恵比寿のマンション借りるとき、どんなに引き止めても自立のためって出ていったのに」
次の日、仕事を終えた光輝が19時に早穂子の家にやってくるや否や、お茶も夕飯も出さずに詰め寄った。
「まあまあ、落ち着いて。相談だからさ、もちろん断ってくれていいんだ。真凛は流産を免れたけど、できるだけ仕事は在宅を勧められて。でも、アトリエに週2、3日は行かないとならないし、通勤するならばこの家のほうがアクセスがいいんだ」
「それならば、恵比寿のあなたのマンションに2人で住めばいいんじゃないの? 真凛さんだってそのほうが気楽なんじゃ……」
「真凛、仕事に夢中になると寝食をおろそかにするところがあって。心配なんだよ。ここだったら、僕が使っていた部屋も、広い書斎もあるだろ? 在宅の日も、昼間はお母さんがいて僕も真凛も安心なんだよ。食事だって美味しくて栄養満点」
「私は家政婦じゃないのよ」
早穂子が眉をひそめるが、主婦としてのスキルを褒められているようで、悪い気はしない。何より、真凛本人がそう思っているのだとしたら、可愛いところがあるものだ。やはりそう悪い子ではないらしい。
「今はさ、まだ妊娠中期だけど、臨月になっても真凛には帰る実家がない。お産を無事に乗り切るまで、お母さんの力を借りたいんだ。
そう考えると、どうせなら少し早く一緒に住んだほうが何かと安心かなって。大丈夫、ずっと居座ったりしないよ。真凛のアパートがもうすぐ更新だからそこは引き払うけども、新生児期が終わったら、3人で住める家を探すから」
早穂子はふうむ、と考え込んで、光輝の顔を見た。
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