東京・千代田区のKADOKAWA本社。写真:アフロ

東京オリンピックをめぐる汚職事件で、出版大手のKADOKAWA会長の角川歴彦容疑者が逮捕されました。政治権力とは一定の距離を置くべき大手メディア企業のトップが、こともあろうに贈賄で逮捕されるという現実に、失望した関係者も多いのではないでしょうか。筆者も同社から書籍を出版しており、残念でなりません。

 

 
民主国家において、被疑者や被告人は判決が確定するまでは推定無罪が大原則ですが、角川氏本人は逮捕前から、資金提供や、スポンサー選定の依頼をした事実については認めています。その一方で、自身は「思いがけない感じ。そういう感想」「戸惑っている」など、あまりにも当事者意識に欠ける発言を繰り返していました。少なくとも、歴彦氏の振る舞いについて、擁護する人はほとんどいないのではないかと思います。

角川氏はその名前からも分かるようにKADOKAWA(旧角川書店)の創業家出身です。かつての同社はお堅い学術・文芸系の出版社でしたが、歴彦氏の兄である春樹氏がトップに就任してからは、エンタメ路線に転向。人気小説を映画化するという当時としては大胆な手法で、一気に業容を拡大しました。「人間の証明」「セーラー服と機関銃」「探偵物語」「時をかける少女」など一連の角川映画は、中高年以上の人なら、邦画に興味がない人でも一度は観ているのではないでしょうか。

春樹氏は自他共に認める天才であり、自ら発掘した薬師丸ひろ子さん、原田知世さん、渡辺典子さんの、いわゆる「角川三人娘」は、角川映画ブームが終わった後もめざましい活躍を見せ、日本を代表する女優に育ちました。

天才ゆえの無軌道さか、何と春樹氏は麻薬に絡んで逮捕されてしまいます。春樹氏に代わって会社を引き継いだのが今回、逮捕された弟の歴彦氏です。歴彦氏は、春樹氏の翌年にKADOKAWAに入社していますが、天才の名を欲しいままにした兄の存在感があまりにも大きかったことから、出版業界ではまったく目立たない人物でした。しかし、春樹氏が退任したことで、KADOKAWAは天才に頼らない普通の会社に変貌する必要があり、その役割を果たしてきたのが弟の歴彦氏だったわけです。

普通の会社になる、という取り組みを地道に続けてきたはずの歴彦氏ですが、その結末が、権力者に賄賂を渡して仕事を取るという形になってしまったことは、何ともやりきれません。

 
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