さらに知人から聞いた恐ろしい話も。彼女の友人のアパルトマンはトイレとお風呂の下水が直結していたため、別の部屋の住人がトイレの水を大量に流した際に、その友人のお風呂に下水が逆流して流れ込んだのだそう。「絶対に自分ではないサイズのものがプカプカ浮いてたんだって」。そんな身の毛もよだつホラーがこの国ではあり得るのかと、本当に慄きました……。

もちろん、裕福な方々が住んでいるオスマン様式の家はしっかりメンテナンスされていて快適なのでしょうけれど。古いものを維持するには、やはりお金と手間が必要なのだな〜と身に染みました。

そんな現在の私の家はというと、近代建築と呼ばれる比較的新しく建てられたアパルトマンです。新しいといっても60年代なので、日本で考えればまったく新しくはないのですが、100年以上前の建物が多く残っているこの国ではモダン物件(笑)。

インテリアをあれこれ勝手に変えましたが、大家さんは「素敵だね! 退去するときはこのままの方が入居者すぐ決まりそうだから、その際は写真取らせてね」と喜んでくれてます(笑)。

実のところ、最初に内見をした際はすぐ「ここはないな」と思ったのです。オスマン建築でなかったし、我が家は家具付きタイプの賃貸なのですが、備え付けの家具もダサかったから。でも夫は「あんなに窓から光がさんさんと入る家、パリではなかなかないよ。冬が長くて暗いパリで明るいことは大事。それに家具とかは変えちゃえばいいから、自分たちで可愛くすればいいよ」と、私を説得にかかったのでした。

 

えー? おしゃれじゃないのになあ……と当初は半信半疑でしたが、住み始めてみたらなんと快適なことか。近代建築の建物は中央暖房システムが多く、我が家もそれ。家のどこにいっても暖かく、かつ電気代やガス代も管理費に込みなので本当に助かっています。

紫蘇や三つ葉、ミョウガなど、この国で手に入りにくい食材を栽培したい私には、使いやすいベランダがあるのも近代建築の良いところ(もちろん猫も大好き)。

あちこちダサーいと思っていたのも、自分たちでトイレの壁は白く塗り(元は全面黄色だったのです!)、便座をシンプルなものに変え、ブラインドを外して好みのカーテンをプラスし、壁に棚を取り付け、IKEAのライトを蚤の市で買ったシャンデリアに変え……と手を加えまくったら、なんだか自分なりの可愛い家に。気がつけば5年以上もここに住んでいます。

大体、いくらオスマン建築の素敵なアパルトマンでも、中にあるインテリアがイマイチだったらパッとはしないはず。そう考えたら、住まいの素敵さは建物じゃないんだな。そう理解できたのが、パリらしいオスマン建築から離れてみたことで得た一番の収穫かもしれません。

撮影/Yas