年齢が離れていても、同じ人間なのだと共感できる音楽
小島慶子さん(以下、小島):今度はBTSの音楽を手掛けてきた人びとにフォーカスしたいのですが、メインプロデューサーであるPdoggやSlow Rabbitは30代、HYBE創設者のhitman bangことパン・シヒョク氏は1972年生まれのベテランです。私はパン氏と同年生まれなのですが、BTSの音楽は’80年代、’90年代、’00年代と自分がずっと聞いてきた音楽に通じる懐かしさを感じるものが多いように思います。
プロデューサー陣が’80年代の音楽を意識した曲作りをするのには、どんな背景があるのでしょうか?
キム・ヨンデさん(以下、キム):実はK-POPは他のグループを含めて、’80年代の曲をよく活用しています。Pdoggはもともとオールドスクールのスタイルが好きなので、hitman bangの考えをよく理解して曲を作ることができたのでしょう。曲を作っているのがPdoggだったからこそ、ノスタルジックなヒップホップあるいはR&BをBTSがよく歌っているのではないかと。Pdoggがヒップホップや強烈な曲を作るのに対し、Slow Rabbitは甘くて叙情的な曲を作るのが上手なタイプの人です。だからバランスが取れているのではないでしょうか。
小島:キムさんの本の中でもBTSの曲はミドルエイジのファンが懐かしく感じると書いてありますが、実は私の周りでも割とそういう人が多いのです。それはBTSだけの特徴なのかと思っていたのですが、K-POP全体の潮流だったんですね。
キム:K-POPには、他にもレトロでノスタルジックな曲を作っているグループが存在します。ただ、BTSがとくにミドルエイジの女性たちに響く理由は、彼らが青春をストレートに歌っていることが大きいと思います。悲しくセンチメンタルに自分の成長を歌っているので、聞き手が自分の青春を重ねやすい。40代のファンも彼らと同じような人生の問題を抱えていると気づき、共感して、応援したくなるわけなんです。年齢は離れているけど、同じ人間だと感じる。こうした共感がすごく大事な部分だと思います。
小島:BTSがこの9年間人気を高めてきたことの背景には、彼らが表現している苦悩や葛藤が、新自由主義の下で格差が広がり、負け組に追いやられてしまった大多数の人が直面している不安や孤独に重なるからだと言われていますよね。
キム:そうですね。韓国では今、資本主義が作ったシステムの中でもがいている人がたくさんいます。「成功するには、こうすべきだ」「学生だったら、こんな生活をするべきだ」といった、ひとつだけの道を強要されているんです。成功か失敗かの二択しかない。そんななか、BTSが登場しました。彼らはお金もコネもない恵まれない環境から出発して、勝ち抜いていきました。社会が決めた成功者の道に従うのではなく、自分たちの価値を自分たちで見出しながら世界最高のグループになりました。こうしたストーリーが、今この時代を生きている韓国人たちに、直観的に強烈な悟りを与えたのだと思います。
それは韓国人のアイデンティティとも重要な関係があると感じます。韓国という国は、朝鮮戦争の後に世界でも有数の貧しい国になり、日本やアメリカをロールモデルにしながら歴史を積んできました。その秩序の中で、韓国は文化的に後進国で競争力に欠けているのではないか……という考えがずっとあったのだと思います。それがBTSの成功を通じて、自己嫌悪を抱いていた自分にも成功する可能性があるんだという希望にもつながりました。
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