誰もが抱えるささやかな「嘘」にまつわる、オムニバス・ストーリー。 

これまでの話
港区タワマン住人図鑑
多香子(42):夫と娘の絵里花(12)の3人暮らし。夫が経営する複数の飲食店の業績が悪化、絵里花の中学受験費用や住宅ローンがのしかかっている
明菜(37):美貌を活かして「いい夫を捕まえてうまくやった」と言われ続け、娘の亜美は絶対に名門中学に合格させようと湯水のごとく課金中
成美(45):おっとりして見えるが、幼少期の苦労からハングリー精神の塊で、虎視眈々と娘のマミをブランド校に入れようと作戦を練っている。
迫りくる中学受験本番、少しずつ3人の関係にも変化が……?
 


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港区タワーマンション怪談【多香子の戦い】

 

「嘘でしょ…!? この組み合わせじゃ入学金を捨て続けるデス・ロードじゃない……」

深夜のリビングで、多香子は足の裏に冷たさを感じながらつぶやいた。1人のときに床暖房をつけないのは、電気代節約など焼石に水だと思っても、最近の哀しい習慣だった。

塾の指南を受けて、エクセルに入力しているのは、1月受験校のスケジュール。各校の出願締切日時、受験日、当日の集合時間とテスト時間、科目ごとの配点、合格発表日時、そして入学手続きの締切日時を一覧表にしている。

いままで漠然とイメージしていた、中学受験本番、1月下旬から2月頭の動きが明確になっていく。しかし、そこで多香子が悲鳴を上げたのは、入学金を納める期日の欄を記入したときだった。