近年、「ブロマンス」というジャンルが人気を高めています。

ブロマンスとは、男性同士の濃厚で親密な関係を描いた作品のこと。古くから男同士の友情を描いた作品は数多くありますが、BBCドラマ『SHERLOCK シャーロック』あたりから改めて注目が集まり、世界的に人気爆発。ここ数年、国内ドラマで男性同士のバディものが相次いでいるのも、こうしたブロマンスブームが背景にあります。

そんなブロマンスの良さを存分に味わわせてくれるのが、公開中の映画『ヘルドッグス』。関東を牛耳るヤクザ組織を舞台としたフィルムノワールであり、銃声と肉打つ音が耳をつんざくバイオレンスアクションでありながら、根底にあるのは美しくも哀しきブロマンスの精神。友愛とも信愛とも形容しがたい男同士の絆に胸焦がされる観客が続出しています。

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『ヘルドッグス』 絶賛上映中 ©2022 「ヘルドッグス」製作委員会 配給:東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

『ヘルドッグス』の描く関係の一体何がそんなに尊いのか。公開から1ヶ月を経た今だからこそ、物語の根幹まで迫った上でじっくり語りたいと思います。

※本稿は映画の重要な展開にふれています。未見の方はご注意ください。

 

これは、1人の主を求めて傷を負い続けた野良犬の慟哭の物語


「俺とこの女、どっちが大事なんだよ」

彼は、そう吠えた。これが凡庸なラブストーリーなら、なんて陳腐な台詞だろう。でも、幾重にも積み重ねたドラマの末に彼から爆発した叫びがそれなんだと思うと、やりきれない絶望の海に、いとおしさという一隻の小舟を見た気持ちになる。

『ヘルドッグス』は、兼高昭吾(岡田准一)と室岡秀喜(坂口健太郎)という2人の物語です。

2人は、関東最大の暴力団組織・東鞘会の中でも汚れ仕事を一手に担う殺し屋コンビ。だけど、兼高の正体は元警官。東鞘会の若きトップ・十朱義孝(MIYAVI)の持つ秘密のファイルを狙い、潜入捜査をしている身です。血生臭い極道の世界で、兼高は無事にミッションをなし遂げられるのか。それが、『ヘルドッグス』の大枠のストーリーです。

兼高を兄貴と慕う室岡は、彼の正体を知りません。互いに背中を預け合い、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきたけれど、2人の無邪気なひとときは兼高の嘘という泥の上で咲く花。嘘が明るみに出たとき、花は呆気なく手折られる。そのあまりに脆くスリリングな関係は、まるで時限爆弾にキスをするよう。

兼高と室岡の物語と説明しましたが、この2人だけに照準を絞ってしまうと、『ヘルドッグス』の妙味は見えてきません。むしろもう少し視界をワイドにしたとき、兼高と室岡の関係の崇高さが逆にクローズアップされるのです。

主要人物は、兼高、室岡、十朱、吉佐恵美裏(松岡茉優)の4人。この4人で相関図を作ると、室岡、十朱、恵美裏の矢印はすべて兼高に向いています。

忠犬のように兼高に尻尾を振る室岡と、“ある理由”から兼高に運命共同体のようなシンパシーを寄せる十朱。そして、東鞘会最高幹部・土岐勉(北村一輝)の愛人でありながら兼高とも関係を持つ恵美裏。

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『ヘルドッグス』 絶賛上映中 ©2022 「ヘルドッグス」製作委員会 配給:東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

みんなが、兼高を欲した。みんなが、兼高に自分を欲してもらいたかった。中でも、誰より強く兼高を必要としていたのが、室岡だった。

『ヘルドッグス』は、室岡という“選ばれなかった男”の物語でもあるのです。そう気づいた瞬間、まるで騙し絵のように景色が一変する。人の命を命と思わぬ狂犬たちの戦闘曲だと思っていた物語が、たった1人の主を求めて傷を負い続けた野良犬の慟哭の物語に変貌するのです。

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