港区のタワーマンションママ友界隈では中学受験熱が最高潮。成美は娘のカンニング事件で動揺するものの、多香子と成美の励ましに涙する家計の急変により、マンションを売る覚悟をする多香子重課金することで不安をごまかしていた明菜も、覚悟を決める。それぞれが壁にぶつかるものの、一歩ずつ乗り越えてきた。そしてついに入試前日の3人は……?
 

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決戦前夜のタワーマンション、ママ友談義

「あと1点で合格だった...」受験過熱のタワマンで、補欠ママにかけられた意外な言葉とは?_img0
 

「明菜さーん、成美さーん!」

午後4時。いつもはたくさんの子どもたちが塾に入っていく時間だが、今日はすでに子どもの姿は校舎前にない。本番の前日、少し早い時間から講師による生徒の「激励会」が行われている。明日の本番に備えて、授業はなく、1時間ほどの決起集会で解散の予定だ。

多香子の呼びかけに、塾の前にいた明菜と成美が振り向き、笑顔になる。

「多香子さんも迎えにきたんだね。今日はいつもみたいに夜遅くないから、お迎えはいらないよって言われたんだけど……なんかいてもたってもいられなくて、来ちゃった。……今日で最後だしね」

「わかる。私も。もうこれで終わりなんだと思うと……それだけで胸が一杯よ! ああ、明日、寝坊したらどうしよう、ちゃんと子どもたち寝付けるかな……忘れものチェックリストを作ってあるけど、さっき心配で10回目の確認しちゃった。予備の時計の予備、とか、キリがないよ~」

明菜が手のひらで顔を覆ってため息をつくと、いつもは落ち着いている成美も、さすがに緊張した様子で頷いた。

「……やっぱり第一志望は特別だよね。多香子さん、凄いよ、1週間前にこのプレッシャーを乗り越えたんだもの。もう怖いもの、何もないよね」

その言葉に、多香子は思わず天を仰ぐ。

「でもねえ、その結果が問題なのよ!! もう知ってるでしょう?」