「優しい嘘をひとつだけ」連載一覧はこちら>>


港区タワーマンション怪談【多香子の決意】

 

「ママ、ちょっと話があるの」

夕飯を終え、普段ならばすぐに部屋にこもって勉強をする絵里花が、なかなか多香子の前から立ち去らないと思っていたら、いつになく真面目な調子で切り出した。

11月、タワーマンションの上層階からは、木枯らしで洗われた空気の向こうに、煌めく夜景と東京タワーがよく見える。

「もちろんよ、どうした? もしかして、マミちゃんのこと? それだったらもう心配しなくて大丈夫、マミちゃん、お母さんとしっかり話して、もうこんなことはしないって元気な心を取り戻したみたいだから」

「違うの、そのことは心配してないよ。マミとも話したし。……そうじゃなくてね、志望校のことで相談があるの」

「え? 志望校?」

多香子は目を丸くする。絵里花はこれまで、志望校に関して悩むことはほとんどなかった。親友たちと一緒に、都内で3本の指にはいる憧れの名門女子校を目指して、ひたすら頑張ってきた。合格率は良くて五分五分のまま突入することになりそうだが、多香子はそれを応援すると決めていた。

「うん……あのね」