カルトや陰謀論にハマる「素直さ」は批判精神のなさの裏返しでもある


アツミ:以前に取材した、ユダヤ教系のカルトから脱出した作家さんが言っていたのですが、カルトはあらゆる行動が集団の意思で決まっていて、個人の意志は許されない、と。

有田:統一教会では、上下関係を「アベル・カイン関係」と呼ぶんですが、「アベルの言うことには絶対服従する」というのが教えなんです。「おかしいな」と疑問を持ったり迷ったりすることは、「サタンが入ってきている」という理解のもとに断ち切られてしまいます。

※カインとアベル
旧約聖書の創世記におけるアダムとイブの息子たち。兄カインは、神に愛された弟アベルを殺害。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教において、人類最初の殺人事件とされる。
※アベルの理論に従うことで、罪を犯しサタンの側に堕ちたカインも神の側に復帰できる、というのが統一教会の教義。

【有田芳生さん】カルトの深みにハマる人に今必要な対策とは?戦後日本のカルトの歴史_img0
写真/Shutterstock

有田:カルトにハマる人たちのもうひとつの大きな特徴は、よく言えば擦れていない善良さと素直さ、悪く言えば社会性とか批判能力の欠如です。例えば統一教会では、戦前日本の朝鮮半島における植民地支配や従軍慰安婦問題についても、教義とともに教えてゆくんです。そうすると素直でマジメな人はびっくりするんですね。そんなひどいことがあったのか、と。

坂口:初めて聞くという方も多いんでしょうね。学校で教えないことだから、自分から興味をもって動かないかぎりは知りようもない話でしょうし。

有田:罪悪感をまずはベースに植え付けられて、そこから「サタンの国・日本が、韓国のために尽くすのは当たり前」という具合につながっていっちゃうんですね。

アツミ:方向性は正反対だけど、ネットの陰謀論をそのまま信じちゃうネトウヨとかと似ているような気もするんですが……。

有田:カルト問題においてどういう仕組みで勧誘が行われ、人々がどういう過程を経て深みにはまっていくのか。もちろん勧誘の手口そのものが巧妙だと思いますが、そういうものに引き込まれてしまう人間の心にこそ議論が向かわなきゃいけないと思うんですよ。

アツミ:ありきたりな話ですが、やっぱり空虚なんでしょうか。

有田:いつの時代もそうだとは思うんですよね。ひと時代前は哲学などの学問がそういうものの受け皿になっていたと思うんですが、今の時代は宗教に限らずさまざまなカルトが、それにとってかわっている。ネットを見ても陰謀論だらけ、しかも多くの人がすぐにそれを信じてしまっていますよね。

アツミ:ツイッターなどでは「この人、めちゃくちゃなこと言ってるな」と思う人のアカウントに万人超えのフォロワーがいたり。見るに堪えない差別的なツイートを繰り返している人を支持し擁護する人がすごく多くてびっくりします。

有田:そういうものも一種のカルトですよね。ありえない話をさも事実のように堂々と言えばいうほど、陰謀論でも差別でも極端なことを言えばいうほど、それに引っかかる人がいるのをわかっているんでしょうね。自分の目の前にあるものしか見ない、そういう社会性のない人たちが多いのは、今の時代の特徴ですよね。

さらにそれが一般の人、若い人だけじゃないんですよね。この間もある集会で同席したお坊さんが、安倍晋三さんの事件はCIAの仕業と言い出したんです。60歳前後の宗教家が公の場で平気でそういうことを言いだしたのには驚きました。

アツミ:そういう部分ではアメリカもすごいですよね。トランプ前大統領の支持層の「Qアノン」とか、まさに中高年男性のイメージがあります。「貧・病・争」という話がありましたけど、もしかしたらコロナ禍の影響もあるような。

有田:世の中が不安になっていますしね。そういう部分もあるでしょうね。

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坂口:日本の宗教カルトはもちろん、様々なカルトが「社会の不信感」とか「政治への不信感」とかをベースに力を蓄えてきておきながら、最終的にはその政治の場で権力を握ろうとするのがなんだか不思議です。矛盾をはらんでいるような。

アツミ:第一次大戦で敗戦国になったドイツで、ナチスが国民の社会への不満を集めて台頭したのもそういう感じですよね。ヒトラーの演説に大熱狂してる映像とか見ると、まさにカルト(熱狂集団)的という感じだし。