没後80年「萩原朔太郎大全2022」記念映画『天上の花』で、朔太郎を師と仰ぐ詩人の三好達治に愛される、朔太郎の妹・慶子に扮する入山法子さん。戦時下の暗い日本を生きる現代的なヒロイン像を体現した入山さんの、演じる役や作品への愛と、30代になってからの変化について聞きました。
これこそ飛び込んでみたかった映画の世界だった
ーー入山さんは、『天上の花』で慶子と出会えたから『雪女と蟹を喰う』の彩女を演じ切れた、最初の一歩だった、とツイートしていました。慶子以前と以後で何が変わったのでしょうか。
30代になってから徐々にそういう気配はありましたが、ようやくチャレンジするものを自分で選べるようになってきました。そういう意味で最初の一歩と表現したんだと思います。
ーー年齢が大きかった?
年齢よりも経験かな、と思います。20代の頃は周りの大人から投げられたものを返すことに一生懸命で、自分が何をやっているのか、何を得られたのか、反省も考察もできない時期がすごく長かったんです。それでも無意識のうちに、体や心は少しずつ周りの人に鍛えてもらっていたとは思います。そこから30代になって、自分の好きなものを「好き」と言いやすい環境になったり、「こういうものにチャレンジしたい」という欲が出てきたりと、少しずつ変化してきているのかなと思います。
ーー慶子役へのチャレンジも自分で決めた。
そうですね。準備稿と企画書を読んだ時点で、この作品は精神的にも身体的にも厳しそうだなとは思いました(笑)。「芝居に没頭できる作品にチャレンジしたい」という想いをずっと抱き続けていたので、これこそが飛び込んでみたかった映画の世界だと思い、すぐに「やります」とお返事した記憶があります。
ーー慶子は詩人・萩原朔太郎の妹をモデルにしたキャラクターで、その美貌に惚れ抜いた三好達治(東出昌大)が妻子を捨てて再婚する人物です。「雪女と蟹を喰う」の彩女への想いを綴ったInstagramの投稿を読んで、演じる役に対する入山さんの愛情を感じて感動してしまいました。慶子は人間なのでいくつか問題はありつつも、ただの嫌な女に見えなかったのは、入山さんが慶子を愛したからではないかなと。
そう言っていただけると本当に嬉しいです。慶子は三好目線で見たら嫌な女かもしれません。でも、彼女は彼女ですごく愛情を求めていた人なのに、自分では全然重要視していなかった“美しさ”を三好から求められて、苦しんでいたと思うんです。彼女は、母親からの呪縛や、兄・朔太郎に対するコンプレックスみたいなものも抱えていたと思います。そこで何もできない可哀想な女性には絶対に見えないようにしたいというところからアプローチしていきました。
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